40.今すぐ会いたい ページ40
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「いない…」
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ガチャリ、と見慣れたドアノブを一気に捻って扉を開けたのに
事務所はもぬけの殻で
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「さとしくん…？」
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テーブルの上には『留守！』と何故か習字で書かれている達筆な文字。
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だから不用心なんだってば。学習しないな。
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…待ってる？ここで待ってればいつかは帰ってくる。
待つのが一番。
…でも。でも。
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「…………っ！」
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ガタン！という音が合図。
私はピンヒールにも関わらず、その場を飛び出した。
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せっかく復旧したエレベーターも使わず、カンカンカンカンとすごい勢いで降りていく階段。
全て降り切って、外にはぁっと出ればどちらに行けばいいか分からない十字路。
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私は走り出した。
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夜の街。あまり人がいない道。
思い切り走って、走って、年がら年中クリスマスみたいにイルミネーションがかってる街を走る。
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よくあるドラマのワンシーン。
主人公がラストシーンで、相手を探すために全力疾走するあの場面。
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私はいつもテレビの前でおせんべいをボリボリ食べながら
「タクシー使えばいいのに。バカじゃん」ってずっと思ってた。
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でも。そんなの。
いざ自分がその状況に置かれるとわかる。
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会いたい。
会いたい。
今ものすごく、あの人に会いたい。
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走り出して、自分の足であの人のところに向かって走って
走って、胸に飛び込みたい。
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「…っは」
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あの人は何でも屋だ。
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「…っいない」
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色んな人の依頼をこなすのが義務だ。
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「こっちは…」
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時には他人になりすますことだってあるだろう。
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「いない…」
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だったら本名を依頼人に曝け出すわけがない。
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「ああっ！もう！」
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かずなり、と呼ばれていたのも
翔くん、と呼ばれていたのも
それは全部偽名なわけで。偽名を使わなきゃならないわけで。
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「ーーーーっ…」
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「智くん！」
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全部。
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