32.涙で埋まる夜、君の温もりが唯一の救いだった ページ32
.
.
男の人に髪の毛を切られるのはいつぶりだろう。
.
.
「なんか…変な感じ」
和也「え？何がよ」
「いつも立場逆じゃないですか。私が切ってって」
和也「あー…、そうね。しばらく散髪はいいかな」
.
はい腕通してー、って二宮さんに言われて言われるがままに腕を通す。
ここからだと全面窓から景色が見渡せる。
二階とは言え、見晴らしは最高。
.
.
二宮さんがハサミを取り出して、くるっと器用に一回転させて
そっ…と私の髪の毛に触れると、シャキンという独特のハサミの音が店内に響き渡った。
.
.
聞き慣れた音が心地よくて、目を閉じる。
.
.
智くんとは、以前に春香を通して何回か会っていた。だからどこかで見た気がしていたんだ。
でも智くんはきっと覚えていない。私だって覚えていなかった。
でも「かずなりくん」と呼ばれていたのはーーー…なんで？
.
ビジネスライクな関係。
キリキリと胸が痛んで、息も出来ないほどにどうしようもなく抱きしめて欲しくなる。
ビッチリ隙間なんて無くして欲しいぐらいに、抱きしめて欲しい。
.
きっとそう言ったら智くんは抱きしめてくれるんだろう。柔和な笑顔を浮かべて
「おいで」って抱きしめてくれるんだろう。でもそれは違う。「お金」がついてくるからで
私が求めているのは、そうじゃない。
.
しばらくして、ハッと目を開けると鏡越しに二宮さんと目が合ってフッと笑われる。
その笑顔は以前のような作りものではなくて、自然な笑顔。ちょっと照れ臭そうに彼は俯いて
「出来たよ」なんて。
.
二宮さんはくふふって笑って窓の外を眺める。
…と。今まで笑ってた二宮さんの顔から笑顔が消えて。私も気になって彼の前に立って
窓の外を見ると。
.
.
「ーーーー…」
.
.
昼間見た女性とは、また違う人と智くんが、すぐ下を歩いて笑ってる。
でも今度は、ズキン、と胸が痛まなかった。何故なら
.
.
後ろから首に回された腕。すっぽり私を包み込んだ彼の腕。
耳元にかかる温度。優しい、甘ったるい声。
.
和也「…ねえ」
.
.
.
和也「俺にしとかない？……A」
.
.
痛む余地も与えられないまま、彼に後ろから抱きしめられているから…。
.
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2723人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
