□ キミのためのあれやこれ ページ17
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「きょも〜、さっきなんか電話来てたよ〜」
「マジか、ありがと。ちょっと出てくる」
六人での撮影の休憩中、樹にスマホを手渡された。
液晶を見るとそこには"不在着信"と"A"の文字。
俺のスケジュールを把握しているAが仕事中に電話を掛けてくるのは珍しくて、珍しい着信に首を傾げながら楽屋を出た。
「…大我くん？」
人気のない廊下で電話を掛け直して数コール、聞こえてきたAの声は心なしかいつもより元気がないように感じて、代わりに自分の喉からはびっくりするくらい優しい声が出た。
「もしもし、A？すぐ出られなくてごめんね」
「ううん、私こそお仕事中なのに掛けてごめんね」
「気にしないでよ、俺は嬉しいし。どうしたの？」
「…えっと」
「大丈夫？」って聞いたらきっと「大丈夫」って即答しちゃうAだから、俺はそんな優しい言葉なんて掛けてあげない。
こんな聞き方をしたら気遣い屋の彼女はきっと困るだろうけど、それでも俺には全部言ってほしくて。
「あのね、…たいがくん、」
「ん？」
「…いつ、帰ってくる？」
Aは俺のスケジュールを把握している。だから、今日の仕事がいつ頃終わるのかも本当は分かってるはず。
つまり、じっくり時間をかけてやっと出てきたその言葉は不器用な彼女なりの「早く帰ってきて」というメッセージで、不謹慎かもしれないけど自然と笑顔が溢れた。
昔、俺が仕事を始めたばかりの頃のAはよくこうやって電話を掛けてきていた。寂しいとか会いたいとか、なんなら理由なんてなかった時もあったっけ。
一週間に三回くらいのペースだった電話は大人になるにつれてどんどん少なくなっていって、一ヶ月に一回、半年に一回、いつしか全く来なくなっていた。
「ふふ、なんか懐かしいな、この感じ」
「んへ、私も今思ってた」
「やっぱうさぎちゃんだわ、俺の幼馴染は」
「…からかってる？」
やっぱり俺が大昔のインタビューで咄嗟に例えた「うさぎ」はあながち間違いじゃなかったんだな。
話しながらスケジュールを確認して、あと一時間もしたら帰れると伝えるとAは嬉しそうな声をあげて、それから「お願いがあるの」と。
「お願い？いいけど、何？」
「ふふ、まだなにも言ってないよ」
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作者名：セナ | 作成日時：2022年5月28日 1時
