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A視点
「そう、ですね。どこからお話ししましょうか...。」
窓から見える月を眺めながら、僕は話を始めた。
「末梢神経障害、をご存じでしょうか。まぁ、僕の世界ではこれは一つの病気なんですけどね。
...あぁ、世界ってのはまた後で説明いたしますね。
簡単に言ってしまえば痛みを感じない、五感のうち触覚が機能していないんです。
怪我をしてもわからないんです。今朝の僕のように。
だから、両親と医者は僕を閉じ込めた。
これは比喩ですよ。
実際は学校にも通ってたし、ちょっと習い事をやってた時期もありました。
でも一回。本当に大きな事故にあったことがあるんです。
いや、二回か。
...階段から転げ落ちましてね。結構しっかり足の骨が折れたんです。
なにが気に食わなかったのかは今でもわかりませんが、
想像の通り、人に落とされました。
救急車に運ばれて、それから、両親からの鎖が強くなりました。
学校通いの行き帰りの送迎、過保護すぎる食事、
毎日の病院通い、身体の怪我のチェック。
心配、といえば聞こえはいいでしょうけど。
僕にとっては、ただの、鎖です。
籠に閉じ込められた飛べない鳥。
ただただ息苦しい、生きていないような存在。
人形みたいな毎日。
気が付けばそんな日々を、数年。過ごしていました。
感覚がない、彼らの心配、多分それらも原因で表情も、忘れてしまった。
感情と共に。
...幼少のころは、ちゃんと笑えて、悲しんで、怒れたのに。
痛みだって、知っていたはずなんですけど。
呪い、なんでしょうね。
しんさんに言われて、腑に落ちた気がします。
ここに来るときに言われた声も、それを指していたのかも。
なにも知らないまま、全てを忘れて、消えたくなかった。
後悔、心残りをそのままにしたくなかった。
それで起きた奇跡、でしょうか。
兵さんから、インカムで連絡を頂いたのではないでしょうか。
『そこから現れた』と。
えぇ、僕は違う世界から来ました。
戦争とは程遠い、きっと平和と呼ばれるような世界から。
この、身に起きた呪いを解くために。
別に、信じてもらう気はさらさらないですよ。
恩人と信頼は別、でしょうから。
それでも、これが僕、という存在です。
お話できて、少しすっきりしました。
ありがとうございます。ゾムさん。」
目線をずらして彼を見た。
彼は静かな相槌と共に、聞いていた。
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