あなたと痛い 3 (ページ9)

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●未熟な心 ab × sk ページ9

気象予報士の資格を取ってからよく言うようになった「キャスターのお仕事をしたい」。
それからだいぶ経って漸く掴んだキャスターさんのお仕事。マンスリーキャスターとして月に1度SDGsを伝えるために出演させて頂いている。
今日はそんな大事な生放送の日、なんだけど。朝からどうも体調が悪い。
一応熱を測れば微妙な数値を映し出す体温計。取り敢えずじわじわと頭の奥の刺激を止めるためにも軽くご飯を食べて薬を飲み込んだ。

夕方になったらテレビ局へ向かう。治るだろうと思っていた頭痛と気怠さは悪化するばかりで余程顔色が悪かったのか、もう何度もお世話になってるアナウンサーさんにも心配されてしまった。
でも、生放送を休む訳にはいかないし「休める時にゆっくりしてくださいね」なんて心配を滲ませた言葉に頷いた。

そしてついに始まる生放送。VTRを見ている最中にも聞こえてくる声に返事をしたり笑ったり。言葉を選びながら発言しなければいけない生放送はやっぱり気持ち的に疲れてしまう。

「ありがとうございました！」

カメラ目線でお礼を告げて一礼の後にお手振り。
そうして裏にはけた途端に襲う吐き気に思わず口元に手を当てた。

「……っ、大丈夫ですか？」

すぐにスタッフさんが声をかけてくれたんだけど、「大丈夫です。ありがとうございます。」と笑って誤魔化した。大丈夫、次の出番まではまだ時間がある。
楽屋のソファに寝転がって目を瞑る。起きたら全部、治ってますように。

「……べさん、あべさん、阿部さん……」

どうやら気が付いたら眠っていたようで、スタッフさんの声で目を覚ました。

「……ぁ、すみません……」

「いえ、大丈夫ですよ。まだ、時間ありますし。
　それに、今日一日中顔色が優れないようでしたから、
　休んでくれないと僕たち的にも困りますし(笑)」

そう言って微笑むスタッフさん。
あぁ、気を使ってくれてるな。
優しいはずの言葉が疲れた心には受け止めきれなくて。
「あはは、ありがとうございます。」なんて曖昧に笑うことしか出来なかった。

中継場所に向かえば有難いことに沢山のファンの方がいて、歓声が痛む頭に響く。
ファンの皆を心配させたくないから必死で自然な笑顔を作る。いつも通り胸を3回叩いてぎゅっと握った。

中継が始まれば皆静かになってくれて、束の間の休息。
でも、終わってしまえばまたやってくる大きな歓声。頭に響く声に微笑みながら局の中に戻っていく。

楽屋に戻ってふぅ、と一つ息を吐きだした。