あなたと痛い 3 (ページ6)

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●甘えと主張 ab × dt ( dt ab ) ページ6

この時間が好きだ。皆が楽しそうにしているのを眺めるのが。勿論その会話の中に自分が混ざるのも楽しいが、皆が楽しそうにしているのを見ているのが特に好きだ。

「ぁ、おはよ、舘さん」

いつものように皆を眺めていると掛けられる声と、誰かが隣に座る気配。

「おはよう、阿部。」

少しの距離を置いているいつもとは違う、肩の触れ合うほど近い位置にいる阿部に、あぁ今日はそういう日かと納得する。「よく頑張ったね。」と阿部にだけ聴こえるように呟けば「ぅん、」と曖昧な返事が返ってくる。

「どこが嫌だ？」

「あたま、ぐるぐる。きもち、わるい。」

阿部はいつも体調が悪かったり、心の調子が悪かったりすると俺の隣に座る。毎回そうだから皆ももう察してくれていて、阿部以外に集中を割く必要がないからありがたい。膝に置いていた手に、冷たいナニカが触れた。恐らく、阿部の手だろう。

隣に顔を向ければ、俯いた阿部がいて。
俺の手に遠慮がちに触れる手を握り、そっと手を引いて抱きしめた。少し息の荒い阿部の背中を空いている手でさすっていたら、阿部が手を握る強さはどんどん強さを増していく。

「大丈夫。大丈夫だよ。頑張ってきてくれてありがとね。」

いつもより小さくなって震えている阿部の耳元に言葉を落とせば、どんどん力が抜けていく。漸く緊張が解けたのだろう。

「snowmanさん準備お願いしまーす！！」

扉の奥から聞こえたスタッフさんの声にまた阿部の体に力が入る。

「阿部……いけそう？」

「……ん、だいじょぶ、できる、やる、だいじょぶ」

自分に言い聞かせるように呟いた阿部は俺から離れて立ち上がると「うん！大丈夫！ありがとね、舘様。」といつもの笑顔で俺を見た。
まだ少し手が震えていたけれど今ここで俺がその手を握ってしまえば折角阿部が頑張って入れたスイッチが切れてしまう。そう思って手を伸ばすのは我慢する。

「いえいえ。」

＿＿＿無理しすぎないで。そんな想いを込めて軽く肩を叩いた。
撮影が始まってしまえば阿部は凄いもので、不安も気持ち悪さも全部胸の中に閉じ込めて"アイドル"のいつもの笑顔を浮かべていた。誰も心配させないように、誰にも気取られぬように。

「お疲れ様でしたー！」

楽屋に戻ってから、今日の撮影のこれが楽しかったとかを話しているドラマ班の中に阿部も加わって笑いあっていた。

「阿部」

「なぁに？舘様」

「今日、ウチくる？」

少しの、違和感だった。
今日みたいな日は俺から離れないのに。