あなたと痛い 3 (ページ4)

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こころのおと ab iw ( sk ) ページ4

「阿部はさ、なんで俺にピアノを弾かせるの？」

病人が過ごすにしては華やかな部屋。
置かれた豪華な刺繍が施された大きなベッドに横たわっている儚い雰囲気を漂わせる男は、俺の幼馴染の阿部亮平。

「えぇ〜そうだなぁ、強いて言うなら……」

緩く微笑んだ阿部は少し考えるような素振りを見せたあと、俺の方を向いて楽しそうに笑った。

「照がピアノを弾いてる姿が好きなんだ。」

昔から体が弱く自分の部屋のベッドの上で日々を過ごしてきた阿部と俺は元々仲が良くて、
大人になって実家に帰ってきた時に挨拶をしに行くと昔からピアノを習っていた俺に曲を1曲弾いてくれと頼み込んできた。自分の部屋は防音で外にも聞こえないし、1回だけでいいから、と。

「でもお前、寝るじゃん。いつも。」

でもなんでだろうな。久しぶりに阿部の部屋で電子ピアノを弾いた時、終わってから穏やかに眠りについていた阿部を見て、このまま放っておけないなって思ったんだ。
そんなことを考えていたら阿部は起きた時に「俺のためだけに弾いてくれない？照のピアノ。」だなんて言うもんだから、二つ返事で返してしまった。

「それはごめんて(笑)
　でもさ、電子ピアノの鍵盤が沈む音がね、
　心音みたいに聞こえてすっごい安心するんだ。」

＿＿知ってるでしょ？俺が夜眠れないこと。
なんてことも無いような顔をして笑う阿部の表情に胸がぎゅっと締め付けられるような感覚になって、「そうだったな。」なんて、なんてこともないようなふりをした。

「ねぇ、照。」

「なに？」

「今日はさ、照が好きな曲を弾いてよ。
　いつも俺がリクエストしてるけど、照が弾きたい曲を聞いてみたい。」

俺の目を真っ直ぐに見つめる阿部に何だか気恥ずかしくなってしまって思わず目を逸らした。「俺、照の弾く曲ならなんでも好きだよ。」なんて言われるから、視線を戻してみると、昔と変わらない、優しい笑みを浮かべる阿部が居て。

「分かった。」

ベッドの傍らに置いた電子ピアノの椅子に座った。
目を閉じて。1つ、呼吸を整えたらゆっくりと光を受け入れる。
目の前の鍵盤に、手を伸ばした。
弾くのは昔、阿部が教えてくれた曲。

奥底にしまった記憶を引っ張り出して音を奏でる。弾き始めてすぐに、なんの曲を弾いているのか分かったのか、阿部の息を飲む音が聞こえた。

あぁ、この曲、そういえばこういう曲だったな。
記憶だけを頼りに指先を動かしていく。
あの時のことは鮮明に覚えている。