＿＿＿＿ ページ29
今日の佐久間はオフのはずだからね。朝仕事を速攻で終わらせた俺たちはあべちゃんの運転で佐久間家へ向かった。
鳴らした呼び鈴に返事は無く、ただ二人の間に沈黙が落ちる。
────倒れてたり、しないよね？
あべちゃんの顔を見ればどうやら同じこと考えていたようで、2人揃って大家さんの所へ。事情を話せば鍵を開けて貰えて声をかけながら家の中へ入っていく。
「佐久間ぁ……」
「……ん、ぁ、っん゛、ふ、」
微かな声。酷く掠れた、咳を我慢しているような苦しそうな、声に満たない空気の音がする。耳を澄ませて、その声を逃さないように。
聞こえてくる方向に向かえばそこは寝室で、大きな音をたてぬようゆっくりとドアを開ければ寝っ転がったま苦しそうに咳をする佐久間の姿。
「佐久間？佐久間！」
2人して焦って近ずけば体を覆う大きな毛布を頭まですっぽり被ってしまって、こんもりとした塊が咳をする度激しく揺れる。
「佐久間、怒ってないよ。怒ってないから顔だして？
苦しいでしょ？佐久間苦しいの嫌いだもんねほら、早く顔だして」
隣から聞こえる同期の声に目を見張った。
蜂蜜と砂糖を大量に煮詰めたような、そんな声。
こんな声、初めて聞いた。
俺に衝撃が走ったことも露知らず、佐久間は毛布からその真っ赤な顔を覗かせると「……ごめん、なさい」と小さくつぶやく。なんだ、分かってんじゃん。
「ふっか、顔恐いよ。気持ちはわかるけどね」
俺から佐久間を隠すように佐久間を抱きしめるあべちゃんの表情は、佐久間が見えていないのをいいことに、これでもかというほど恐くなっていた。
あぁ、あべちゃんは佐久間に警戒されないためにあの声を出していたのか。
ストンと腑に落ちた感覚。
「佐久間。」
最初より幾分か甘さの抜けた声であべちゃんが佐久間を呼んだ。
「……あ、べちゃ、」
「俺、怒ってるよ。」
涙の張っている大きな瞳。零れんばかりの涙がキラキラと反射してまるで漫画の一コマのよう。現実でこんなにキラキラすることってあんのね。
「……ごめ、なさ」
「違う、違うよ佐久間。」
謝罪の言葉を紡ぐ佐久間の口をあべちゃんは優しく塞いだ。
「俺がね、俺が怒ってるのはね。
佐久間がちゃんと言ってくれなかったことなんだよ、
でも俺もごめんね、
もっとちゃんと連絡取ってたらこんなことにならなかった。」
─────苦しませてごめんね。ごめん。
あぁ、こいつは、阿部亮平という男は、どうしてこうも馬鹿なのか。
＿＿＿＿→←●分けて、泣かせて。sk × ab, fk ( ab )
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作者名：あませさん | 作成日時：2023年8月21日 19時
