＿＿＿＿ ページ16
「あべちゃん！！！」
近くまで精一杯走れば逃げていく男。
「あべちゃんだいじょ……ぶ……、え？」
「っ、はぁっ、ぐっ、」
「っ！あべちゃん！！ねぇ！あべちゃん！」
ぐらり、あべちゃんの体が崩れ落ちる。俺はそれを、支えることも出来なかった。
どさりとコンクリートに体が打ち付けられる音がしてから漸く動いた自分の体は酷く震えていて、手の先にべっとりとついた赤に息が詰まってしまう。
「きゅ、きゅうきゅうしゃ、はやく、っ」
震える指で1１9を押す。呼び出す音に心臓の音が大きくなっていく。
聞こえてくる人の声に必死で状況を伝えた。
ただただ怖くて仕方なくて、もしかしたらあべちゃんが死んでしまうんじゃないかって、もう二度と会えなくなるんじゃないかって思ったらもう何も考えられなかった。
腕の中で苦しそうに息をするあべちゃん。
はやく、はやくきてよ、助けてよ、あべちゃんを助けてよ。
忙しなく響くサイレン。
飛び交う救急隊員の声。
あべちゃんの腹部から流れる、真っ赤な液体。
救急車に乗って、気がついたら病院の中で座っていた。
どれくらい待っていたんだろう。赤いランプが消えて、ねぇ、助かったよね？
出血がどうとか、損傷がどうとか。
お医者さんが詳しく説明してくれるんだけど、なんでだろ。全然頭の中に入ってこないや。
あべちゃんのことで頭がいっぱいで。
そのあとに案内された部屋。
ガラスで隔たれた無機質な空間。
細い腕に刺さるナニカ。
真っ白な、肌。
定期的に曇るマスクだけが安心できる材料だった。
あんな思い、二度としたくない。いつ起きるかも分からない君を眺めて毎日涙を流すなんて、もう嫌だ。
♢
ぼーっと指先から流れる血を眺めるあべちゃんに息が詰まって呼吸ができなくなるかと思った。
明るく努めて笑って「もー、気をつけてね」なんて言いながら絆創膏を貼りながらあべちゃんを見上げる。あぁダメだ。聞こえてないや。
あべちゃんは多分、嫌になっちゃんたんだと思う。自分の体を、大切にすること。
まぁ、俺が感じてるだけで実際は違うだけかもしれないけどね。
「ほら、あべちゃん帰るよ？」
「あ、うん。帰ろっか。」
2人並んで歩き出す。ぼんやり明るく俺たちを照らす月が、どうしても憎らしくて。
＿＿もう、月なんて見えなくたっていいよ
「ん、？佐久間、なんか言った？」
「ううん、何にも。それにしても月が綺麗だね？」
「そうだね、ほんと、きれい。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 350人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あませさん | 作成日時：2023年8月21日 19時
