呪縛と解脱 ab ページ14
『逃亡劇はまだ先』のdtさんの兄視点のお話。
「ごめん体調悪いから今日は学校行かない。」
毛布にくるまって俺に背を向ける弟。
「……そっか、分かった。ゆっくり休んでね」
どうせ俺の声は聞こえていないだろうけど、その背中に言葉を投げる。
「あれ、渡辺くん？」
大学に行ったり、バイトをしたり。夕方になって漸く家に帰ってみれば家の前でウロウロしている人が居て、誰かと思ったんだけど多分、涼太の親友の渡辺翔太くん、かな。
そう思って声をかければびっくりしたのか肩を震わせてから俺の方を見た。
「えっ……あっ、はい。えっと……」
「あぁ、ごめんね急に話しかけちゃって。
俺、涼太の兄の阿部亮平です。渡辺翔太くん、だよね？」
「そう……です。どうも。」
「ふふっ、どうも。
涼太のこと、心配して来てくれたんだね。ありがとう。」
そうやって笑みを向ければ照れたように俯く翔太くん。
いいなぁ、やっぱり、うらやましい。
「ねぇ、翔太くん。」
「…はい、？」
「涼太ね。今体調悪いみたいで。」
きっと多分、それは体の不調では無いのだろうけど、俺に治せるものでは絶対にないから。
「だからさ、一緒にいてあげてくれない？」
君といる時の涼太は、すっごく嬉しそうで、楽しそうで。
見ていてうんざりするほどに輝いて見えるんだ。
「っ、わかりました！」家の鍵を開けて入ってもらえば、嬉しそうな顔をした翔太くんが階段を駆け上がっていく。そっかそっか、何度も来たことがあるんだっけか。
うらやましいなぁ、俺には到底作り出せない関係だ。
『ごめん』
涙で溢れそうな君の顔は酷く苦しそうに見えた。
なんで、そんなに苦しそうなの。
『置いてかないでよ…』
苦しそうに顔を歪める君は＿＿
ピロン、ピロン
通知音がしてスマホを開いた。
『ねぇ、あべちゃん。そろそろ返事くれてもいいんじゃない？
見てるんでしょ？佐久間さんそういうの分かっちゃうんだから！』
『俺の何がダメだった？ねぇ、阿部。
置いてかないでよ、俺をひとりにしないで。』
届いた言葉には無視をして。でも、ブロック出来てないあたり俺も未練タラタラだよなぁ、笑
電源のスマホはすぐに落として街を包み込む夕焼けを眺める。
「あーあ、ほんと、俺ってなんで“普通”になれないのかなぁ」
独りごちた言葉は空気に溶けて落ちた。
呪縛と解脱 fin.
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 350人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あませさん | 作成日時：2023年8月21日 19時
