あなたと痛い 3 (ページ12)

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いとしい ab × sk ページ12

『優しい夢へ連れてって』後日談的なやつ

佐久間先生の相談室に連れてかれて以来何度か自分の意思で相談室に向かうようになっていた。もちろん授業後に、だけど。
本当は予約を取らなくちゃいけないんだけど、親に言いたくない俺の心情を気遣ってか予約を取らなくても基本的に行けば迎え入れてくれた。

今日も、閉められた扉をノックする。

　 ◇

コンコン。
小さく響いた音に目の前にいる涙目の生徒に断りを入れて扉の方へ向かう。

「はーい、ごめんねぇ、今ちょっと……」

扉を開ければそこには阿部くんが。

「あ、ごめんね今ちょっと別の子いるからさ、待っててもらってもいい？」

＜いや、いいや。なら帰る＞

スラスラと動かされる指。
ふと、「兄貴が難聴だから、それで。」となんてことないような顔で呟く阿部くんの姿を思い出した。声を出したくない時や、こういう風にカウンセリングを受けているのを声で知られたくない時なんかにこうやって阿部くんは手を動かす。

＜待って、俺も話したいからさ。待っててくれない？＞

昔から手話には興味があって勉強してたのがまさかこんなところで役に立つとは思ってなかったけど。

小さく頷いた阿部くんは相談室の隣の小さな部屋に消えていった。

「待たせちゃってごめんね、」

それからまた元いた子の話を聞く。早口にならないように、相槌が食い気味にならないように気をつけながら。

「またね、気をつけて帰ってね。」

ありがとうございました。小さく呟いた生徒が角を曲がって見えなくなるまで見送る。

急いで戻って、ガチャリ。控えめに扉を開けばそこは真っ暗で、モゾモゾと部屋の隅にあるソファの上で何かが動いた。

「あ、阿部くん寝てた？」

そう声をかければ「大丈夫……です、」とだけ帰ってくる。膝の上に乗せるように置いていた荷物を持ってソファの上から移動する阿部くんはなんだかいつもより幼く見えた。

相談室に入ったあとはいつも通りお話をしてたんだけど、やっぱり幼い気がする。

いつもは基本敬語でたまにタメ口が混ざっちゃう感じだったんだけど、今日はずっとタメ口。あとなんか雰囲気がポワポワしてる。

「……さくま、せんせ。」

「ん？どした？」

途切れた会話。時計の針の音がうるさいほどに響いている。次の言葉がやってくるまで暫く待っていれば、少し口を開閉させたあと漸く阿部くんは言葉を紡いだ。

「……ここあ、ちょーだい。飲みたいの、」

あの日から何度か求めるようになったココア。