●過去と現在の狭間で ab × sk ページ11
ピンポーン。
久しぶりのオフの日の夕方。いつものように溜めていたアニメを見ていたとき、突然なる呼び鈴に宅配なんて頼んでたっけと思いながらインターホンを覗いた。
キャスケットの隙間から覗く茶髪、何度も見た事のある私服。
マスクをして俯いていたって誰かわかる。
「え、あべちゃん……？」
急いで玄関へ向かう。
ゆっくりと扉を開ければ顔を上げて虚ろな目で俺をじっと見つめるあべちゃん。
「……、さくま、」
小さく落ちた言葉は覇気をなくしていて、普段の彼からは想像のできないほどに冷たい印象を受けた。
「えちょ、取り敢えず入って？」
手首を引いて家の中に入れれば、少し違和感。手、熱くね？
「……うぉっ、ちょ、どしたのあべちゃん」
扉を占めると同時に寄りかかってくるあべちゃんは、暖かくて。
はぁ、はぁと荒い息を繰り返していた。耳元で聞こえた「ぃたい、」という言葉に体調が悪いのだと漸く合点がいく。
体調が悪いのなら、連絡してくれれば行くのに。そう思いながら激しく呼吸する背中をさする。
「あべちゃん来れたね、教えに来てくれてありがとうね。」
でも、体調不良を隠してしまう彼がこうして俺を求めて家までやって来てくれるのはいい進歩だろう。
抱きしめられるような形のまま声をかけ取り敢えずリビングへ。
ソファに寝っ転がってもらい、帽子やマスク上着を脱がせる。
「……ん、はぁ、はぁっ、く、るしっ、」
酸素を求めて呼吸を繰り返すあべちゃん。
冷蔵庫から持ってきた冷えピタをおでこに貼って、「ちょっと冷たいよ〜ごめんねぇ」なんて声をかけながら首の裏にも貼らせてもらう。
冷たさにピクリと反応したあべちゃんはゆっくりと目を開いた。
「さく、まぁ、っいたい、いたいの…っ、」
探るように伸ばされる手を握って、恐らく熱のせいなのだろう「痛い痛い」と譫言のように呟くあべちゃんの頭をもう片方の手で優しく撫でる。
涙を滲ませるその瞳にどうしようもなく胸が締め付けられてしまう。
君の痛みを全て請け負って自分のものにしてしまいたい。でも、きっと君は笑って言うのだろう「佐久間じゃなくて良かった」と。
漸く眠りについた君はふわふわな髪をその少し焼けた肌にベッタリとくっつかせていて、未だ苦しそうに顔を歪めながら眠るそのお腹をぽんぽんと一定のリズムで叩きながら声をかけ続ける。
「あべちゃん、大丈夫、大丈夫だよ。佐久間さんがいるからね。」
熱なんて、消えてしまえ。
過去と現在の狭間で fin.
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作者名：あませさん | 作成日時：2023年8月21日 19時
