肆拾壱 ページ41
明日の朝、こことはお別れ。
形代と呼ばれるものに自分の名を書き
息を吹きかけてから部屋を出る。
ここを出ていく人は初めてで何が起こるか分からないから
一応の儀式、だそうだ。
来た時同様、旅館から鳥居までの道は
望くんがおぶってくれるらしい。
形代を置いていくのも、あの道をあたしが歩いてはいけないのも
生者がここに居たという痕跡を残さないため。
というたか兄からの一連の説明を受けてから
あたしと望くんは一緒に菫の間を出た。
『じゃあまぁ、とりあえず今日はいつも通りな』
｢うん。昼からはまた厨房におればええよね？｣
『…おう、そやな』
｢何で笑ってんの？｣
『いきなり関西弁なんがちょっとおもろくて笑』
全く無意識だった。
記憶が戻ると同時にこれになっていたので
今から変えるのは難しい。
そのままでええ、とまた笑った望くんの後ろに続いて
階段を降りていく。
掃除をしている子供たちにちょこちょこ声をかけながら
望くんから掃除用具を渡された。
そうや、この子達と過ごすのも…今日で終わりやもんな。
あたしがどういう存在なのか、どこまで知れ渡っているか
分からないが最低限の挨拶はしておきたい。
でも全員に言うのはあまり得策ではない気がするから
望くんが少し離れた隙に朔くんを呼んだ。
彼なら、理解してくれるはず。
朔｢どうしました？｣
｢あたし、記憶が戻ってん。明日の朝にこことお別れする｣
小さな声でなるべく周囲に聞こえぬように。
朔くんは少しだけ目を開いた他は特に何の反応も示さない。
｢ありがとうってほんまは全員に言いたいけど、もし
パニックになったりしたら困るから一応朔くんだけに｣
朔｢そうですか…お気遣いありがとうございます。
…お嬢様の状況は分かりませんが、ここに戻ってこられる
事がないようお祈り申し上げます｣
やはり10歳とは思えない貫禄。
アダルトチルドレン…彼は早く大人にならざるを得なかったのだろう。
彼にとってもあたしは疎ましい存在だったかもしれないのに
深々とお辞儀をしてくれた。
やってきた十也くんになにしてるの？と突っ込まれるまで
彼は頭を上げなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 153人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はのん(プロフ) - カジャさん» すごいです！1話でもめっちゃ嬉しくて興奮してしまいました！！ありがとうございます！！！ (2022年10月4日 21時) (
レス) @page50 id: eb6042d99a (このIDを非表示/違反報告)
カジャ(プロフ) - はのんさん» 全く考えていなかったため、このように1話のみとなってしまいましたが…リクエスト、ありがとうございました。 (2022年10月4日 15時) (レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
はのん(プロフ) - そんな風に言っていただいて嬉しいです！望くんと濱ちゃんのその後を書いて欲しいです！ (2022年10月3日 18時) (レス) id: eb6042d99a (このIDを非表示/違反報告)
カジャ(プロフ) - はのんさん» 応援ありがとうございました。はのん様の言葉がとても力になりました。その後、というのは望くんサイドでしょうか？それとも夢主と流星とのお話でしょうか？ (2022年10月3日 14時) (レス) id: c91b141c55 (このIDを非表示/違反報告)
はのん(プロフ) - 全部読ませていただきました！終わってしまって寂しいです。もしよければ、その後どうなったかのおまけ的なの書いてほしいくらいです！ (2022年10月2日 21時) (レス) @page49 id: eb6042d99a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：カジャ
| 作成日時：2022年9月11日 21時
