１７３話 ページ27
マルコはサイドテーブルの上の木箱を見ている。
精巧な螺鈿細工ではないため、まじまじと見られるのは何やらいたたまれない。
ﾏﾙｺ「…これ、Aがやったのかよい？」
『…うん、そうだよ』
ﾏﾙｺ「器用なんだねぃ」
『そうでもないよ』
ﾏﾙｺ「この仕上がりなら売れるだろぃ」
思ってもみなかった発言に驚きつつ、細工を見るが、やはり金を取るには値しないと思った。
ﾏﾙｺ「…ま、そんなことより」
そう言って袋を差し出してきた。
中身は錠剤だ。
ﾏﾙｺ「今日から普通に食事して良いよい。この薬は毎食後。こっちは朝と夜だよい」
『…わかった。ありがとう』
マルコが書類仕事に戻ったのを見て、私も部屋に帰る準備を始めた。
本や螺鈿細工を纏め、ベッドのシーツを剥がす。
医務室のベッドは使用する人が大きいため、一台が大きい。
少々苦労しながらも洗濯物置き場へ持っていく。
ギィィ…
ドサッ
カツ…
カツ…
カツ…
カツン…
ガチャッ
自室に入り、螺鈿を施した木箱を元の場所に戻す。
本たちも適当に並べておく。
ぐぐっ…
伸びを一つして、何となく耳を澄ましてみる。
カチ…
カチ…
カチ…
時計の音。
ギィ…
キィ…
船が軋む音。
キィ……
ガチャン…
誰かが扉を開閉する音。
どれも小さな音だが、聞こうと思えばはっきりと捉えることができる。
…前まではこんな音に気を向ける余裕など無かったからだろう。
些細な生活音がやけに耳につく。
『…ふぅ』
一息ついた時、ノックの音が響いた。
コンコンコンッ
ﾉｱ「A起きてるかしら？」
ナースの一人であるノアさんが部屋を訪ねてきたようだ。
『うん、起きてるよ。どうしたの』
ﾉｱ「良かったらちょっと付き合って頂戴」
早朝にナースの誰かから声がかかると言うことは、基本的には着せかえ人形にされるということである。
因みに拒否権はない。
『…わかった。すぐに行く』
＿＿＿
コツコツコツ…
ナースたちの部屋に着いたものの、扉を叩くのは少し緊張する。
コンコンコンッ…
「はーい、入っていいよ」
『失礼します』
ガチャ…
既に部屋の中は服で一杯になっており、それらは全てこの後私に着せられるものである。
見るだけでげんなりしてしまうような量だが、ナースのお姉さま方は楽しそうなので文句は言わない。
ｴﾏ「さぁさぁ！服脱いじゃって！」
身体中にある傷跡も、今では見慣れたらしく誰も何も言わない。
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作者名：雨狼 | 作成日時：2024年2月21日 12時
