１７１話 ページ25
新聞をサイドテーブルの上に広げ、鉛筆、小刀、カシュー塗料、螺鈿、櫛を並べる。
流石に医務室で漆を使う訳にはいかないため、カシューナッツから作ったカシュー塗料というもので代用する。
手慰みに螺鈿細工を行うのもどうかと思うが、道具が揃っているのはこれだけだったのである。
早速螺鈿に薄く図案を描いていくことに。
本来であれば別の紙に描いた図案を転写するのだが、私は職人ではないため精密に同じ物が作れなくても良い。
何を描くか迷ったが、揚羽蝶を描くことにする。
鉛筆で描いた線に沿って螺鈿を切り取っていく。
スー…
スッ…
パキッ
『…あ』
螺鈿が割れてしまったため、やり直しだ。
大体同じ柄を描いて、再び切り取る。
スー…
先程割ってしまった部分はより慎重に刃を進める。
一度で切り取るのではなく、繰り返し切って徐々に切り離すのがコツである。
３０分かけてやっと切り取り作業が終わった。
次は櫛の表面に切り取った螺鈿を配置していく。
本来は配置したパーツを接着剤で仮止めするのだが、少し面倒くさいため私はやらない。
全体のバランスを確認した後、カシュー塗料を塗って全体に艶を出す。
『…よし』
あとは乾燥するのを待つだけ。
時計を見るとこの櫛の装飾を始めてから約二時間が経っていた。
だが今日は一日の殆ど寝ていたため、眠気は来なかった。
櫛以外にも装飾できるものがあったかな。
持ち物を思い起こしてみるものの、装飾しても良いものはこれといって無い。
……道具を入れていた箱に装飾をしようか。
何を描こう。
金魚と桜…は、定番ではあるが良いかもしれない。
再び鉛筆を握り、螺鈿に柄を描いていく。
鉛筆ではあまり線が付かないが、致し方ない。
金魚は蒔絵、水面は螺鈿で表すことに。
カリカリッ…
スー…
ササッ…
ペラ……
＿＿＿
水面を半分ほど配置したところで、ふと気配を感じて顔を上げた。
完璧に目が合った。
ﾏﾙｺ「…何してるんだよい」
『……手芸…です…』
ﾏﾙｺ「……こんな時間までやるなよい…！」
ﾏﾙｺ「とっとと寝ろぃ」
『…はい…』
見つかったら怒られるのだろうということは何となく予想していたが、マルコが怒ったときの気迫は凄まじいものだった。
軽く道具をまとめ、大人しく布団に入ることに。
ﾏﾙｺ「…はぁ…ったく、次は無いよい」
次見つかったら没収…と言ったところか。
それは避けたい。
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作者名：雨狼 | 作成日時：2024年2月21日 12時
