家族なんて、欲しくなかったのに (ページ40)

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８８話ページ40

ふわっ……！！

！

来た！

さっきよりも強い上昇気流だ！

身体がぐんぐん空へ引っ張られる感覚。

翼を大きく広げ、羽先や尾羽を微動だにさせない。

この感覚は誰に教わらずとも本能的な何かで得た。

翼全体で上昇気流を掴み、空高く舞う。

この飛び方を帆翔と呼ぶ。

帆翔はやっているこちらとしても気持ちの良い飛び方である。

あとは羽ばたきもせず、ただ風に乗るだけ。

とはいえ、ここはマリンフォードの付近。

気は抜けない。

＿＿＿

翼を広げてから合計8時間、と言ったところだろうか。

レッドラインの頂上はもうすぐそこだろう。

しかし、もう体力も限界に等しい。

レイリーに会うことがなければ、力を取り戻すことに１日を使えたはず。

そうすればここまで時間は掛からなかっただろう。
体力もまだ残っていたはずだ。

でも、会わなかった方が良かったかと訊かれると確かにその答えはノーである。

憎めない人、と言う奴だろうか。

これ程苦労したのにそう感じさせる彼は至極不思議な人間である。

そう言えば、バロックワークスのアジトでウィッグを落としたままだった。

回収するどころではなかった。

今は銀髪を雑に束ねただけ。

これからはウィッグは被らないようにしようか。

などと考えているうちに雲を抜けた。

いよいよ頂上が近くなってきた。

『……やっとか』

思わず口にする。

気が急いで、

バサッ！

バサッ！！

トンッ

やっと、着地することが出来た。

『…っと』

『…ふぅ……』

レッドラインの頂上はマリージョアのように栄えていて街があったり、それとは逆に荒野が広がっている地域だってあったりする。

ここは勿論荒野である。
だから態々ここを選んだのだ。

荒野である必要がなければ、此処より僅かに崖が低い地点を選んだが。

見渡す限り平面的な赤い地表。

まるで生気がない。

こんなどころでは私の力は回復しない。

理解はしていたが。

私の"力"とは、私の"生命"とも言える。

他者の"生きる力"や"生命の素"を少しずつ集めたものが"力"となる。

レイリーにも必ず生きて帰ると豪語してしまったし、死んでしまう前にあの船に帰りたい。

とはいえ力が零の現状、人間の容貌を保つことすら出来ない。

嗚呼、身体から力が抜けていく。

今人間がここに来ることがあったらどうなるのだろう。

シャボンディ諸島に近いし売られるだろうか。

売られても別に良いが、そうなるとモビーの人たちが心残りだな。

意識が暗転する。