８７話 ページ39
まずいな。
しかしもう面倒だ。
レイリー自体は良い人だが、状況が面倒過ぎる。
『……飛ぶの』
バッ！！
掴まれていた腕を振りほどいてセイルを広げる。
もし話せる時が来たら、きちんと話したい。
何故か、そう思ってしまった。
そんな時は来ないと分かっているのに。
カームベルトギリギリの海域を走り、マリンフォードの真横……ぐらいだろうか。
そのぐらいの位置で止まり、セイルを畳む。
翼を広げ宙へ舞い、ボードも空気を抜いてしまう。
ここからは体力勝負みたいなものだ。
バサッ
推進しつつ、しっかり上昇していく。
＿＿＿
レッドラインの頂上は、雲がかかる程高い。
正直、羽ばたきだけで越えるのはきつい。
しかも昼間は海面より地表の方が温度が高いため、レッドラインから海面に向かって風は吹き下ろしている。
つまり、私は上昇したいのに下降気流の中にいることになる。
風に押さえ付けられ、なかなか上昇できないでいる。
ハヤブサは、急下降と急上昇を繰り返して波状に飛ぶことがある。
その多くは警告飛行である。
そのような飛び方では体力をすぐ消費しきってしまうのではないか。
答えは否である。
急下降した勢いを使って急上昇するためだ。
これを上手く利用すれば、時間は掛かれど上手く上昇できないか。
そう思って実践してみる。
バッ
翼を閉じて急降下していく。
バサッ
100mほど降下したところで翼を広げる。
翼の先端を操作して下降気流の影響を受けにくくすることで元の高さよりも上昇することに成功した。
これを繰り返すことで昼間も少しずつではあるが上昇していくことが可能である。
……途方もない回数繰り返すことになるが、それは致し方がないだろう。
＿＿＿
急降下急上昇を繰り返すこと早800回と言ったところだろうか。
日が沈みかけている。
レッドラインの表面温度が下がり、海面温度と釣り合い始めた。
お陰で今は無風。
所謂、夕凪状態である。
もうじき海風が吹き上げ、上昇気流が生まれるはずだ。
ここまで良く耐えたものだと我ながら感心する。
今のうちに出来るだけ高く飛び上がり、諸々のタイムロスを取り戻したいところだ。
バサァッ
更に1時間程した頃漸く日が沈み、夜がやってきた。
半分ほどの高さまで来ただろうか。
微弱ではあるが、上昇気流も発生している。
あともう一息。
あと少しで、羽ばたきを止められる。
もう少しの辛抱である。
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作者名：雨狼 | 作成日時：2024年1月8日 4時
