７０話 ページ22
『私さぁ…結構小さい頃から自分よりもっと小さい子どもに囲まれてたから』
そう言いながら欄干に上がる。
その上を両手を広げながら歩く。
『だから、子ども扱いとか、大事にされるのに慣れてなくて』
『なんか、変な感じするんだよね』
おっと、酔いが回ってきただろうか。
『……あらら、お酒で口が軽くなっちゃった』
少し舌足らずに、そう言う。
ﾏﾙｺ「可愛いとこあるじゃねぇかよい」
『んはは、普段は可愛くない？』
『まぁ、可愛げはないよねー』
ｲｿﾞｳ「バランス崩して海に落ちるなよ」
『んー、大丈夫ー』
だって飛べるし。
そうは言っても心配をしているらしく、マルコもイゾウも側を離れずに着いてくる。
欄干の上でクルクルとターンしてみたり、ステップを踏んでみたり。
…私、バレエもやったことあるんだっけ。
『ん〜…色々やったなぁ……』
ｲｿﾞｳ「何をだ？」
『お仕事』
ﾏﾙｺ「どんなことやってきたか今なら詳しく答えてくれるかよい？」
『えー、どーしようかなぁ』
まぁ、隠すことでもないか。
『…勿論殺しもやったし、街中で大道芸もやった。あとダンスとか？あ、職人になったこともあるし、海兵になったこともあるよ』
ﾏﾙｺ「…海兵？」
『うん。海軍の情報を抜き取りに行ったんだよ』
『今はもう在籍すらしてないよ』
『あ、勿論依頼があったら行くけどね』
そう言うや否や、二人から殺気を感じた。
『んはは、家族、大事なんだね？』
ﾏﾙｺ「当たり前だよい」
『私ね、前にも言ったけど家族とは良い思い出なんかこれっぽっちもないから』
『この船に乗るときも、乗り気じゃなかったし。家族なんか、欲しくなかった』
これは本音だ。
これだから酒は嫌なのだ。
知られたくないところまでポロポロと吐き出してしまう。
ｲｿﾞｳ「……殺るのか？」
『まさか。意味ないじゃん』
『……あ〜あ、家族なんて、欲しくなかったのに』
ﾏﾙｺ「何が言いたい」
マルコの語尾が抜けている。
相当怒らせたか。
『ん〜……マルコ、イゾウ』
呼ばれた意味が分からないようで、二人とも怪訝な顔をしている。
『…ありがと』
ﾏﾙｺ「…は？」
『…私にも、大事なものができちゃったなぁ』
『死にたかったのに、死ねなくなっちゃった』
『大事なものなんてなくて、身一つだったからどんなに危ないこともやってきたのに』
『…君らは、ことごとく女狐の爪牙を奪ひゆく。お陰に随分と弱くなりにけり。ゆゆしく、わりなし』
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作者名：雨狼 | 作成日時：2024年1月8日 4時
