37 ページ39
『…泣いてるん？』
落とされたその言葉に、ハッとなって息を止める。
見られている訳でもないのに、必死になって首を振ってから、
「…泣いてないです」
そう一言呟いた。
『嘘や。俺分かるもん』
「…可愛いですけど泣いてないです」
『可愛い関係ないで！？』
いや、嬉しいけど今！？
そう叫ぶ大橋くんに、涙を拭いながらふふ、と笑う。
「……でも、ありがとうございます」
ズッと鼻を啜ってから、ボスリと後ろの布団に倒れ込んだ。
泣いたせいか、頭がボーッとする。瞼も腫れてきたのか、酷く重たくて。
逆らえずに瞼を下ろした私の耳に、「…なぁ、」と。戸惑いがちな声がスマホ越しに降ってきた。
「…どうしました？」
『あ、いや……何でもないで』
曖昧な答えをする彼が気になったけれど、回らない頭ではそれ以上の追求はできなくて。
首を傾げて何となしにコクコクと頷く。
少しの間沈黙が落ちてーーそうして先に口を開いたのは、大橋くんの方だった。
『…なぁ、また眠られへん時は連絡しておいでや』
「…え？」
『あ……え…いや、あのー………ちゃうねんな』
言葉を濁す彼に、閉じかかった目をシパシパと何とか瞬かせる。
『俺より仲良え子そりゃおるよな』
「え、…え？」
『えっと…ごめん！ 俺、何言うてんねやろ…』
「……ふは、何でそんなに慌ててるんですか」
重たい腕を持ち上げて目の上に乗せる。
その下、くすくすと堪えきれない笑い声が漏れた。
『え…』
「…もしかして、心配…してくれたんですか」
ーー今の私、とっても我儘だ。…ズルくて、わがまま。
うんって、そう言ってもらえるのを期待して。
…そう言って、欲しくて。
今だけでいいから、貴方の事を、独り占めしたくて。 …なんて。
『当たり前やろ』
落とされた言葉に、胸がトクリと甘く疼く。
深いところまで落ちて、堕ちて。
そうしてーー
ーーまたひとつ、貴方に溺れていく。
「大橋くんに心配してもらえるなんて、私、世界一の幸せ者だぁ」
『何、言うて…』
「ーー大橋くん、」
“…だいすき”
彼の言葉を遮って無意識のうちに落としたそれに、彼が息を呑む音が、遠のく世界の中でふと、聞こえたような気がした。
ふわりふわりと揺蕩う意識の中で、大好きな声が囁いた優しい響きを最後にーー私は薄れゆく意識を、そっと手放した。
『…おやすみ。いい夢見てな』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 468人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雨音(プロフ) - とまと。さん» コメントありがとうございます！未熟者ですが表現の仕方とか言葉選びには自分なりのこだわりを持って書いているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです(๑˃̵ᴗ˂̵)励みになります(^^)ありがとうございました！！ (9月29日 19時) (
レス) id: 9d08cd299b (このIDを非表示/違反報告)
とまと。(プロフ) - 表現の一つ一つが魅力的で物語に引き込まれました！ (9月27日 21時) (レス) @page5 id: 880d93815c (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 夜星さん» 夜星様、嬉しすぎるお言葉ありがとうございます…(´；ω；`)とっても恐れ多いですが、すごく励みになります…！少しでも楽しんでいただけるようにぼちぼち頑張っていくので、またお暇な時にでも覗きにきてくださったら嬉しいです(*^^*)ありがとうございました！ (5月21日 22時) (レス) id: 9d08cd299b (このIDを非表示/違反報告)
夜星(プロフ) - 文字量多いと書いていましたが、そんなことないですよ！場面や感情の描写が丁寧だと自分がその場にいることを想像しながら読むことができるので、雨音さんの書き方はとても好きです！気長に更新待っていますので、無理せず最後まで書いていただきたいです！ (5月20日 12時) (レス) @page30 id: 3020618f52 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雨音 | 作成日時：2023年4月3日 0時
