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「…ふふ、」
「へ、」
…おかしいなぁ。
気付いたら微かに笑みが溢れていて。自分の事なのに酷く驚いた。
とてつもなく、緊張していた筈なのに。
「ふふふ、耳赤いです」
「あー！！見んといてー！！」
両手で耳を覆った彼が、恥ずかしげに叫んだ言葉に、マスク越し、口元を隠すようにしながらくすくすと笑う。
私の方をチラリと見ながら「笑わんといてー！」と再度叫んだ彼に、笑いながらもハッとなって慌てて口を開いた。
「あ、大橋くん、声声！」
「あ、ヤバ…」
ぱしりと今度は両手で口を覆った彼。
一つ一つの動作が破壊力満点すぎて、私の心臓が過労死しそうで。
私はといえば、思わずぱしりと自分の左胸を押さえた。
そんな私に気付かず、キョロキョロと周りを見渡した大橋くんは、人目が無いとはいえさすがにマズイと思ったのか、手に持っていたキャップを被り、そうしてマスクをつけた。
そろそろお別れの時間かな、なんて。
名残惜しく思ってしまうのは、私のーー我儘だ。
ライブでももらえない貴重な機会を、長い人生の中で、一回もらえただけでも、幸せ過ぎる事なのに。
この一回の、だけど奇跡的な邂逅を、一生大事に持って生きていこうと。そう思った。
「…そろそろ戻らんとやな」
腕に嵌めていた時計を見ながらそう呟いた大好きな彼に、何も言えず、ひとつだけ頷いた。
ーーお別れの、時間だ。
「…大橋くん、」
呼びかけた名は、先ほどとは違って、口からするりと滑り落ちた。
「…今日が直接伝えられる最後の機会になると思うので、一つだけ、いいですか」
顔を上げてこちらを見る彼に、震えそうになる唇をきゅっと噛み締めた。
ーー伝えたいことは、山ほどあるのに。
胸が詰まってしまって。言葉が詰まってしまって。
…代わりに、また涙が、零れてきそうで。
言葉にならない想いが溢れ出したものが涙だって、そう聞いたことがあるけれど。
…泣くな、泣くな、と。
手のひらを、ぎゅっと握りしめた。
涙で想いが伝わるなら、言葉なんて要らない筈だ。
伝えたいのは、届いて欲しいのはーー、あの時手紙に綴った、確かな感謝と、ありったけの想い。
ーーだから、言え。
不恰好でも、辿々しくても。
言葉に乗せれば、きっと…届くから。
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雨音(プロフ) - とまと。さん» コメントありがとうございます！未熟者ですが表現の仕方とか言葉選びには自分なりのこだわりを持って書いているので、そう言って頂けてとっても嬉しいです(๑˃̵ᴗ˂̵)励みになります(^^)ありがとうございました！！ (9月29日 19時) (
レス) id: 9d08cd299b (このIDを非表示/違反報告)
とまと。(プロフ) - 表現の一つ一つが魅力的で物語に引き込まれました！ (9月27日 21時) (レス) @page5 id: 880d93815c (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - 夜星さん» 夜星様、嬉しすぎるお言葉ありがとうございます…(´；ω；`)とっても恐れ多いですが、すごく励みになります…！少しでも楽しんでいただけるようにぼちぼち頑張っていくので、またお暇な時にでも覗きにきてくださったら嬉しいです(*^^*)ありがとうございました！ (5月21日 22時) (レス) id: 9d08cd299b (このIDを非表示/違反報告)
夜星(プロフ) - 文字量多いと書いていましたが、そんなことないですよ！場面や感情の描写が丁寧だと自分がその場にいることを想像しながら読むことができるので、雨音さんの書き方はとても好きです！気長に更新待っていますので、無理せず最後まで書いていただきたいです！ (5月20日 12時) (レス) @page30 id: 3020618f52 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雨音 | 作成日時：2023年4月3日 0時
