強くたっていい。だろ？４【青葉城西】

＊ ページ43

「俺…姉御に謝ってくる！」

「西谷！？」

くるりと背を向け走り出そうとする西谷を、縁下が掴んで止める。


「離せ力！俺は…！」

「一旦落ち着けって！田中！手伝え！」

「お、おう！」

暴れるように手足をばたつかせながら、西谷が苦しげに叫んだ。


「俺、何も知らないで姉御に酷い事言っちまったんだ！俺らのことも騙してたのかって、信じてたのに何だよって…！」


食いしばられた歯がギリ、と嫌な音を立てる。
後悔と、悲しみと、自己嫌悪と。
様々な感情が、その小さな背中から溢れ出していて。



「…西谷」

静寂を破ったのは縁下だった。


「…分かるとは言わない…けど、俺も苦しい」

でもな。
前を見据えるその瞳に迷いは無かった。



「“それ”は、全部終わってからだ」


その言葉に、ぐっと拳を握った西谷がこちらを向く。それを確認してから、今まで黙っていた大地が徐に切り出した。



「…縁下の言う通り、もし夏瀬が本当に脅されてるんなら、俺らは不用意に夏瀬に近付かない方がいいかもしれないな」

首を傾げる俺らに、大地は腕を組みながら言葉を続けた。


「考えてもみろ。俺らが夏瀬に近付けば、それが夏瀬の弱点になるかもしれないだろ」

「…俺は何となく分かったけど、単細胞二人が分かってないっぽいよ」


俺の言葉に溜め息を吐いた大地の代わりに、同じ苦労人気質の縁下が苦笑しながら口を開いた。
何て頼りになる男、縁下力。


「…可能性の一つとして、夏瀬さんが脅されてたとするだろ？そうだな、例えば“お前に近付く奴もただじゃおかねぇ”みたいな」

「姉御脅すなんて良い度胸じゃねぇか！」

「あんまりナメてっと食い散らかすぞアアン？」

「お前ら…例えばの話って言ったろ？」

あとすぐ喧嘩売んのやめろって言ってるよな？
背後にゴゴゴゴの文字を背負う、何とも頼りがいのある男、縁下力。
頼もしい。頼もしすぎる。

大人しくなった二人に溜め息を吐いてから再度口を開く縁下を、生温い眼差しで見つめる。


「で、俺らが夏瀬さんと仲良くしてるところを、脅した奴らが見たとする」

そしたらそいつらはどうすると思う？
縁下の問いに西谷が元気よく手を上げた。


「ハイッ！」

「はい、西谷」

「俺らんとこに殴り込みに来る！」

「不正解」

そうぴしゃりと言い切った後、縁下はスッと目を細めながら人差し指を立てた。



「夏瀬さんのところに行ってこう言うんだよ」


…烏野と仲良いんだな、って。

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