瀬戸際での選択の話 ページ11
国見side
「あきら君、」
鈴を転がすような声。聞こえた声に目を見開いて、そうしてバッと後ろを振り返った。
「桃原、さん…」
透き通るような白い肌。黒目がちな瞳。ほっそりとした肩。
ーー可愛いを凝縮したような人だと、中学の頃誰かが言っていた。
大きな目をきゅっと細めながら小走りで寄ってくる先輩に、俺は小さく頭を下げた。
「久しぶり。元気だった?」
「…はい」
大きくなったねぇ、と背伸びをした先輩が小さな手を一生懸命に伸ばす。
上目遣いで見つめられ、その瞳に吸い込まれそうになったところで、俺はぎこちなく視線を逸らした。
可愛らしい仕草。近い距離。
無意識かもしれないけど、相変わらず男心をくすぐるのが上手い
「あきら君…?」
「いえ、何でもないです」
不安げに俺を呼ぶその声に、努めて優しく言葉を返す。
普段なら絶対にしない気遣い。
この場に青城の先輩達がいなくてよかったと内心でホッとした。
ニヤニヤとした笑みを浮かべながらこちらを眺めていたと思ったら、一人になった瞬間すり寄ってきて、ここぞとばかりにからかい倒すのだ。あの人達は。
…いや、岩泉さんとAさん以外は。
…いや、Aさんもほんの時々悪ノリしてくるから、やっぱり岩泉さん以外は。
無意識のうちにほんの少しだけ頬が緩んでいたらしい。
首を傾げた桃原さんはそっか、と呟くと、突然何かを思い出したかのようにサアッと表情を暗くした。
「あ、あの…あきら君」
「…はい?」
「な、夏瀬…さん、元気…?」
怯えたような瞳。胸元で所在なさげに組まれた掌。
《…Aさんってほんとに白鳥沢のマネージャーの事殴ってたんかな》
控え室でのあの会話がフラッシュバックする。
目を見開いたまま何も言わない俺に気付いているのかいないのか。桃原さんは目を伏せたままそっと呟いた。
「…あきら君は聞いた…かな」
何を、だなんて言われなくても分かっている。
中学の時とは違う。
関係なくなんかない。どうでもよくなんかない。
ただーー願わくば、何も知らないままでいたかった。
事実なんて求めてなくて、真実なんて知りたくなくて。
…だって、俺にはどちらの側にもつく事なんてできないから。
(…ねぇ、Aさん)
こんな時に渦中のあの人を呼ぶなんて卑怯だと思った。
それでも、どうせ誰にも聞こえやしないとその名を喉の奥でなぞる。
(ーーこれは、俺の甘えかな)
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雨音(プロフ) - @ あのせ。さん» わわ、嬉しすぎるコメントありがとうございます(≧∀≦)とりあえずハンカチどうぞ!!そして存分にイライラをぶつけてくださいませ!笑 じゅ、10回!?思わず笑っちゃいました(*´∇`*)熱量が伝わってきてとっても嬉しいです!ありがとうございましたT^T (2023年1月13日 15時) (レス) id: 9d08cd299b (このIDを非表示/違反報告)
@ あのせ。 - 感情移入しすぎてめっちゃ泣きました(泣)早く桃原殴りたいです(やめろ)とりあえずあと10回は見直してきますっ! (2023年1月12日 10時) (レス) @page35 id: 928e357de3 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - あずきさん» あずき様!!二度もコメント下さってありがとうございます(≧∀≦)続編ありがとうなんて嬉しすぎて泣いちゃう…T^Tそして追いコメントはむしろ作者へのご褒美ですな(๑˃̵ᴗ˂̵)あずき様が気持ちを抑えられなくなるように頑張ります!!! (2022年6月21日 22時) (レス) id: 9d08cd299b (このIDを非表示/違反報告)
あずき(プロフ) - わー!続編ありがとうございますー!気持ちを抑えられずまたコメントしてしまいました!照れ泉さんも男前泉さんもいいですよね。えっと、続編行っても気持ちが抑えられなくなったらコメントしちゃうかもです!続編でも作者様のペースで疲れないペースで頑張って下さい! (2022年6月20日 23時) (レス) @page50 id: 121db8bbe8 (このIDを非表示/違反報告)
雨音(プロフ) - atchoさん» 同志…!!マッキーよきですよね(*´꒳`*)♡そしてそして嬉しすぎるコメントありがとうございます(T_T)そろそろお話が動いていくのでまた見てくださるととっても嬉しいです╰(*´︶`*)╯本当にありがとうございました!! (2022年6月2日 21時) (レス) id: 9d08cd299b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨音 | 作成日時:2022年4月28日 20時