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樹「またお前独りぼっちになっちまったじゃん」
北「え？俺そんなに可哀想？」
樹「うん、すげえ可哀想」
北「え？そういう感じで去年俺と一緒にいてくれたの？」
樹「うん、そう」
冗談だってわかるけど、俺の心臓が変にうるさい。
もし本気で言っているなら、と考えてしまう。
安堵がだんだんと薄れていっているのがわかった。
北「え？それ本当に言ってる？」
樹が我慢しきれないといった様子で、ふっと笑った。
樹「うそうそ、単純にお前と友達になりたかったんだよ」
北「え？それ本当に言ってる？」
樹「お前、やっぱ面倒くせえな！」
樹がははっと笑う。
見慣れたその顔と聞き慣れた笑い声に、再び安堵が戻ってくる。
嬉しくて、樹の肩を小突いた。
樹「てか、もう席替えしたの？」
教室を見渡しながら言った樹に俺は「うん」と答える。
北「今日の初っ端にした」
樹「なにそれ、マジズルいじゃん」
北「そう？べつに席とかどこでもいいじゃん」
樹「はあ？席こそ一番重要だろ！」
去年の席替えを思い出して、樹にとってはそうか、と納得した。
樹「くじ引きでやったの？」
北「うん」
樹「窓際の一番後ろとか、お前マジどんな強運持ってんだよ」
北「樹とは違ってね」
去年も席替えの決め方はくじ引きだった。
ただ、前から２列目までは希望者が選ぶことができて、視力が低かったりガリ勉だったりとヒエラルキーでいうところの下層の中の下層の空気みたいな存在感の人たちがこぞってそこを選んでいた。
俺も最初の２回はその中にいた。
コンタクトしているから黒板が見えにくいってこともなかったし、ガチガチに勉強したいってわけでもなかった。
ただ前にいる人たちを見たくなかったからという理由で選んだ。
高校生活を満喫している人たちを見ると、なんだか虚しくなると思ったし、どんどん自分の存在感が薄れていくような気がしたから。
でも、その区域は当時の俺にとってはお似合いだったし、居心地も悪くはなかった。
それでも、後ろから聞こえてくる賑やかな声に心臓が刺されたように痛んだ。
その声の主たちが今後俺の友達になるだなんてこれっぽっちも思ってもいなかったから、当時の俺はその痛みを紛らわせるかのように、黒板を凝視して、先生の声だけを聞き取ろうとしていた。
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作者名：雨中遊 | 作成日時：2021年7月19日 17時
