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「おっ、いた」
騒がしい教室内でもその声はちゃんと耳に届いて、俺の顔は自然とそこへと向いた。
ピンクの髪色、着崩した制服、線の細い身体。
田中樹だ。
この一年間ですっかり見慣れた人と目が合う。
にやっと笑う樹に、俺とまだ友達でいてくれている、と思えて安堵した。
樹が両手をポケットに突っ込んで、ズカズカと教室に入ってきた。
「えっ、樹じゃん!」「どしたの、うちの教室になんか来て」とヒエラルキーの上層の奴らの男子が言っている。
女子は言葉は発していないが、目で樹を追っている。
さすが、爆モテの田中樹。
声をかけてくる男子たちに適当に答えつつ俺の席まで来た樹は、俺を見てにやにやしている。
北「なんだよ、気持ち悪いな」
樹「え、酷くね?気持ち悪いとか」
北「で、なんだよ」
樹「お前どうしているかなーって心配して様子見にきてやったの」
北「余計なお世話だわ」
樹「そんなこと言って、本当は嬉しいんだろ?」
北「うるせえよ」
樹がケラケラと笑いながら俺の肩に手を置いた。
そこから伝わってくる温もりに、さらに安堵する。
北「え、てか、樹一人で来たの?」
樹「なに、不満?」
北「いや、そんなんじゃないけど」
樹の頭の中からは消えていなかったけど、やっぱり他の4人の頭の中からは消えているんじゃないか、って不安がじわじわと湧き上がってくる。
樹「安心しろって!たぶんもうちょいしたらあいつらも来ると思うから」
あいつらとは、他の4人。
去年できた樹以外の俺の友達のジェシー、京本、高地、慎太郎のことだとすぐにわかった。
北「は?うるさくなるじゃん」
樹「なんだよ、迷惑そうな顔しやがって。本当は嬉しいんだろ?な?嬉しいんだろ?」
北「だから、うるせえよ」
とか言いつつ、湧き上がってくるものが不安から嬉しさへと変わっている。
急に樹が座ってきて、俺のケツは椅子から押し出され、半ケツ状態になった。
北「おい、くっついてきて気持ち悪いな」
樹「嬉しいくせに」
ため息しか出てこなかった口から、ふっと息が出た。
俺、嬉しいんだ。となんだか恥ずかしくなった。
樹「お前って不憫だなあ」
北「なんだよ、急に」
樹「だって、俺ときょも同じクラスで、ジェシーと慎太郎と高地が同じクラスじゃん」
北「それがなんで不憫なんだよ」
至近距離にある樹の顔が急に真顔になった。
その顔に俺から「え、なに」と声が出た。
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作者名:雨中遊 | 作成日時:2021年7月19日 17時