第百十五話 ページ30
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沈黙が二人の間に流れる。
それは、中々破れることはなく。
ややあって開かれた口は安室さんから、それもどこか確認するような控えめな声で。
「……あの、ごめん。いきなり過ぎて頭追いついてなくて。僕のこと……好きって解釈で…いいの、かな?」
「う、うん!」
「…そっ、か。そっかぁ。」
そこでようやく、整理がついたと言わんばかりにだらしなく頬を緩ませて私にぎゅうと抱き着く。
その行為がどこか子供を彷彿とさせてこちらまで頬が緩みそうな勢いだ。
「本当に、僕なんかでいいんですか?」
「なんで敬語で聞くの。考えなしにこんなこと言わないよ。」
「確かに、Aさんはそんな人だよね。」
「安室さんに言われるのは何かムカついちゃう。」
「ごめんって。」
背中越しにばしばし手のひらで叩けば感じるのは男の人の大きな背中。
痛い音はしているのに、ごつごつした骨に阻まれて痛そうにしている様子はなく、ただ安室さんは笑っていた。
そんな姿にでさえ今はどきゅんと胸を射抜かれる感覚がする。
いや、きっと比喩表現関係なしにそうなっちゃってるのかも。
「じゃあ、これからよろしくおねがいしますね。Aさん。」
「こっ、こちらこそよろしくおねがいします……安室さん。」
両者居住まいを正すと顔を見合わせたあと声に出して笑う。初めての経験はほんの少し甘くてとろけてしまいそうな。
握り締めた私の手に大きな手が重なって、肌と肌の重なる瞬間が堪らなく愛おしい。
「……折角なら、安室さんじゃなくて名前で呼んでほしいな。」
「へっ!?」
「僕だけ名前呼びなんて不公平じゃない?」
「そ、それは…そ、そうだけど!いきなり…そんな事言われても…!」
「別に減るもんじゃないし…いいでしょ?」
意地悪く上がった口角にするりと撫でられる指先。付き合うという経験でさえ初めてで今何をしたらいいのか分からない状況だというのに頭は最早ショート寸前。
口をぱくぱく開閉させ、何か言葉を言わなくてはと口を開くもそれも虚しく同様から声は出せない。
「……そっか、僕の名前なんて呼べないよね…。」
「ち、ち、ち、ちがっ!」
「じゃあ呼んでくれる?」
「うっ、……えっ、と……と、と、と…」
「と?」
「と、おる……さん。」
「…マジか。」
「へ、だ、駄目だった!?」
聞こえるか聞こえないかの声でぽつり、小さく漏らすもそれを聞いた瞬間項垂れた安室さんの顔を心配そうに覗き込んだ。
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花帆 - こんばんは、安室さんとの両想い…!!甘くてトキメキます(*´ω`*)これからの展開も楽しみに応援しております♪ (2018年7月17日 4時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
瑛奈(プロフ) - 初めまして!いつも楽しく読ませていただいます!ついに夢主ちゃん、安室さんが好きだって自覚しちゃいましたね(笑)今後の展開で降谷さんとしてはどう動くのか楽しみです(笑)更新大変かもしれませんが頑張ってください! (2018年7月1日 15時) (レス) id: 7374128719 (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 更新ありがとうございます!夢主さんどんどん大変になってきますね…実質は相手2人なのに(笑) 目が離せません! (2018年6月18日 9時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
mao(プロフ) - 更新ご苦労様です!主人公うらやましい!(笑)安室さんファイトって応援したくなりますね! (2018年6月17日 20時) (レス) id: 5697599ead (このIDを非表示/違反報告)
来夢*゚(プロフ) - salomeさん» もう、いろんな人たちがてんやわんやしてますね…!工程通り進めましたが中々書く方はハードです…笑 これからどうなるかどうぞお楽しみに! (2018年6月17日 19時) (レス) id: 522dbc585e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:来夢*゚ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/playlistra/
作成日時:2018年6月13日 20時