第百十一話 ページ26
.
そこから、沖矢さんはなるべく沈黙になるのを避けるため色々楽しいお話を聞かせてくれた。
その心遣いが私の虚無な感情を少しずつ取り払ってくれる。
観覧車も終盤、ほぼ下に降りつつある時沖矢さんは私の手を握って、手の甲に音を立ててキスをしてきた。
「行こうか、お転婆なお姫様。」
「お、お転婆なお姫様って…!」
「実際、こうして何時間もベンチに座って今にも泣いてしまいそうな顔をしている女性なんて中々いないと思うが。俺が迎えに来てなかったらどうするつもりだったんだ?」
「うっ、…ま、まぁ…確かに。すみません…。」
沖矢さんの言葉にぐうの音も出ない事に気がつけば、小さく息を吐いて観覧車から降りる。
その時手は引かれたまま、声が変わっても紳士なところに変わりはないんだなと考えながらもほぼ人のいなくなった遊園地を二人で歩く。
黒く影が差し、伸びる。
繋がった手が、温かさが全部全部黒に染まる。
罪悪感を感じると共に激しいもやもやに襲われそれは簡単に晴れてはくれない。
「……どうかしたか?」
「あ、あぁ、すみません。ぼーっとちゃってて。」
「冷えているのなら車に毛布を積んでいるはずだからくるんでいるといい。」
「ありがとうございます。」
車まで丁重にエスコートされれば助手席に乗るよう促されおずおずと中へ入る。
中に入った瞬間沖矢さんの匂いがぶわっと香ってなんだかちょっと落ち着いた。
車がゆっくりと発進してほの暗い街を駆け巡る。
時々差し込むオレンジ色の街灯に私の拳が意外にも力強く握られているのに気がついて力を抜いた。
「改めてだが、今の声は沖矢昴の時に出していた声ではない。
俺の本当の名前は赤井秀一。訳あって素性を伏せ東都大学に入学させてもらっている。」
「……赤井秀一…さん。」
「騙すような真似をしてすまなかった。」
「……あ、それは別にいいんですけど…訳があるのに私に話してよかったんですか?」
「本当なら駄目だな。ボウヤに怒られてしまう。」
「ならなんで…?」
「……ふむ、何故だろうな。強いて言うなら…。」
止まる赤信号、赤色が綺麗な色を放つ時、今までの沖矢さんの顔が突然知らない人の顔に変わり目を見開く。
近づくエメラルドグリーンの双眸に吸い込まれそうになりながらもその美しさに息を飲んだ。
「安室くんに君を取られたくなかった、それだけさ。」
.
1906人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
花帆 - こんばんは、安室さんとの両想い…!!甘くてトキメキます(*´ω`*)これからの展開も楽しみに応援しております♪ (2018年7月17日 4時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
瑛奈(プロフ) - 初めまして!いつも楽しく読ませていただいます!ついに夢主ちゃん、安室さんが好きだって自覚しちゃいましたね(笑)今後の展開で降谷さんとしてはどう動くのか楽しみです(笑)更新大変かもしれませんが頑張ってください! (2018年7月1日 15時) (レス) id: 7374128719 (このIDを非表示/違反報告)
花帆 - 更新ありがとうございます!夢主さんどんどん大変になってきますね…実質は相手2人なのに(笑) 目が離せません! (2018年6月18日 9時) (レス) id: aa0adc990d (このIDを非表示/違反報告)
mao(プロフ) - 更新ご苦労様です!主人公うらやましい!(笑)安室さんファイトって応援したくなりますね! (2018年6月17日 20時) (レス) id: 5697599ead (このIDを非表示/違反報告)
来夢*゚(プロフ) - salomeさん» もう、いろんな人たちがてんやわんやしてますね…!工程通り進めましたが中々書く方はハードです…笑 これからどうなるかどうぞお楽しみに! (2018年6月17日 19時) (レス) id: 522dbc585e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:来夢*゚ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/playlistra/
作成日時:2018年6月13日 20時