Epilogue1 -3 ページ9
.
食器を洗い終えて手を拭いていたら松本さんが何かを手に取った。
「アンタ、もう帰るんだろ」
「はい。いつまでもお世話にはなれませんし、大した荷物もなかったので」
食事を作り始める前に私は帰宅のための準備をした。
もともと大した荷物もなかったから時間はほとんどかからず荷物はまとまってしまった。
すべてを鞄に詰めて見つめた客間は、意外にも私の痕跡なんて全然残っていなかった。
まるで最初からそこに私なんて存在しなかったように。
私の居場所はここじゃないとでも言いたげに。
初めて足を踏み入れたその日と変わらずに、部屋はただ静かにそこに在るだけだった。
「これもってけ」
「これは…？」
ちょこんと手のひらにラッピングされた袋が乗せられる。
「昨日、アンタとニノが爆睡してる間に翔さんが食べたいって言ってたから作ったクッキーの残り」
「……残り」
「そう、残り」
あくまでそこを強調する松本さんに私は一拍いて頷いた。
「ありがとうございます、松本さん」
「ついでだから」
「はい、わかってます。ついで、ですね」
笑顔を向けてそう言ったら松本さんは機嫌悪そうに凛々しい眉をぎゅっと寄せた。
半透明の袋の中に詰められた丸いクッキー。
松本さん、料理だけじゃなくてお菓子作りも得意だったのか。
そこは二宮さんと一緒だな。
やっぱり、二人とも翔さんのためにお菓子作れるようになったんだよね、きっと。
「どうせ」
「え？」
「どうせまともに飯食ってねぇだろうから。それと一緒にお得意の甘ったるいココアでも淹れてもらえ」
「！」
切れ長の目は私を見てすぐに逸れていく。
後腐れなくエプロンを外してエプロン掛けに引っかけると松本さんはキッチンを出て行ってしまった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 531人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
iCHiKA(プロフ) - 一気読みとはありがとうございます！複雑なお話になってしまいまして伝わるように書けているか不安だったのですがそう言っていただけるととても嬉しいです。お楽しみいただけていましたら幸いです。この度はコメント誠にありがとうございました。 (2020年3月29日 20時) (
レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - こんにちは。冒頭から終わりまで食い入る様に一気読みしちゃいました。簡単な様で奥深く…とても考えさせられるお話でした。一方通行ではなくたくさんの紐が絡み合って…やっと少しずつ解けていく。現在進行形が心にズシンと刺さり感動すら覚えました。 (2020年3月28日 11時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - 橘花さん» 橘花様、ご感想ありがとうございます。いつもいただく感想が本当に力になっておりました！感謝です。ブレてない…ですかね？大丈夫ですかね？そう言っていただけるととても嬉しいです。大団円まで不器用な彼らを見守っていただきありがとうございました！ (2019年12月14日 13時) (レス) id: a52d40e8ad (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 完結おつかれさまです！大団円で彼らなりに前に進み、穏やかに、幸せに、たのしそうに過ごすのが見られてすごくよかったなぁと感じます。智さんも少し表現を間違えただけなんだろう、と思ってます。作り込まれていてブレない軸のあるお話をありがとうございました。 (2019年12月11日 20時) (レス) id: c96c7aeb8a (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - ていくさん» ご感想ありがとうございます。彼らのことを気に入っていただけてよかったです。楽しんでいただけていましたら大変光栄に思います。彼らの今後も、色々考えてみたいなぁと思っておりますところです。最後までお付き合いいただきありがとうございました！ (2019年12月8日 17時) (レス) id: a52d40e8ad (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年11月11日 22時
