私じゃない誰か ページ42
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鳥のひなにでもなった気分で、目の前に差し出されたフレンチトーストに噛みつく。
噛み締めた甘さを喉へと送り込んで、追い打ちをかけるみたいに甘ったるいココアを流し込む。
のどを焼いてココアが落ちていく。
甘ったるくて喉が痛くなるこの組み合わせを文句も言わずに飲み込めるようになったのは二宮さんに出会ってからだ。
「おいしい」
「よかった」
嬉しそうに二宮さんが微笑む。
ほんとうに今日は機嫌がいいみたいで、ニコニコしながら二宮さん自身もフレンチトーストを頬張る。
「ん、我ながらいい出来」
「二宮さんて、甘いものだけは作るの上手いよね」
「だけはってなんだだけはって…まぁ、練習したからね」
「え、練習」
「なんだその顔」
二宮さんと練習って単語があんまり結びつかなくて思わず目をぱちくり。
怪訝そうに目を細めた二宮さんは文句言いたげな色を目に宿してこちらを見る。
「なんでもないです……でも二宮さん、甘いものあんまり食べないじゃん」
「俺はね。自分で食べてたんじゃなくて作ってあげてたの」
ためらいなくするりと二宮さんが言った言葉にココアに伸ばした手が止まる。
私じゃない誰かに、二宮さんが甘いもの作ってたの？
二宮さんは誰にでも優しいわけじゃない。
友達の相葉さんにだってあんな態度で、だからこそ友達なんて全然いないわけだけど。
自分のためじゃなくて誰かのために自分の好きじゃない甘いものを作る、なんて、二宮さんからしたら普通じゃない。
固まった私に不思議そうな顔を向けたままフレンチトーストを口に運ぶ二宮さんはそんな私の疑問をこれっぽっちも感じてないらしい。
それはきっと、二宮さんの中では当たり前の事実だから。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年7月19日 17時
