甘く、沈む。《ars/k.n,s.s》 (ページ4)

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忘れたページ4

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帰る場所がなくなりました、

なんてとぼけて言ったわたしに

「家賃もったいないからうちに越してくれば」

と抑揚のない声でつげる二宮さんは薄手の紫のコートを自分のと私のと二つの鞄を持ったほうの腕にかけると反対の手を私に差し出した。

「カボチャの馬車用意できないから、電車だけど」

「いーですよ、べつに」

その手に私の手を滑り込ませるとぎゅっと握り込まれる。

私より幾分か高い位置にある二宮さんの薄い唇が眠そうにひとつあくびを吐き出した。

午後七時。

ネオンが点滅する繁華街を駅まで歩く。

カツンカツンって私のヒールが地面をたたいて音を鳴らすたびに同じ速度で二宮さんの上着が揺れる。

私の肩に掛けられたそれはちょっと大きくて不格好。

まだまだ夜は冷え込んで寒いけどまるで二宮さんが冷たい風から私を守ってくれてるみたい。

「今回はどんくらいだったわけ」

「んー……一か月くらい？あれ、一か月半だったかな…？」

「覚えてないのかよ」

「あんまり。もう忘れた」

「あっそ」

自分から聞いてきたのに興味なさげにまたあくびをする横顔をそっと盗み見る。

横から見ても整った顔は魔法使いにしておくにはちょっとだけもったいない。

「夕飯食ってく？」

「そーですね……チューハイの気分です」

「酒のリクエストは聞いてねぇよ」

文句を吐き出した唇は笑ってる。

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