勝手にどこかに ページ26
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例えば私が今日櫻井さんに会いに行かなかったとしたら。
あるいはそれを二宮さんに伝えていなかったとしたら。
二宮さんはどうしただろうか。
何も言わずにまた月曜日、会社の喫煙スペースで美味しそうに煙草を吸うんだろうか。
そういえば最近、二宮さんが煙草を吸うところを見てないなって、不意に思った。
「おまえはさ、勝手にどこかに行かないよな」
「え？」
そんな話をしてただろうか。
唐突に、鼓膜を揺らしたその言葉が体中に振動して心臓をドクリと揺らす。
このままじゃまるで二宮さんの方こそどこかに行ってしまいそうな気がして、重ねていた手を二宮さんの指に絡める。
ぎゅっと握りしめた手は、私が思っているより小さく感じられた。
「もし私が勝手にどこかに行っても、二宮さんは探しに来てくれるんでしょ？」
いつだってこの人は、私なんかに手を伸ばして引っ張り上げてくれるから。
俺力弱いんだよなぁなんて悪態付きながら、言葉とは裏腹の力強さで私を繋ぎとめてくれるから。
誰に傷つけられたって、あなたの強さに守られてきたから。
そんな二宮さんが、弱音を吐くなんて似合わない。
なんて、私の一方的な思い込みかもしれないけど。
理想を押し付けてるだけなのかもしれないけど。
「……ふ、そうだな。必ず探しだして、ちゃんと拾ってやるよ」
ようやくいつもの調子で二宮さんが喉を鳴らして笑った。
耳元に息がかかって、ちょっとくすぐったくて。
だけどようやく聞けた二宮さんの笑う音に心の底から安堵した。
「上がったらココアでも飲むか」
「飲む」
「ん」
ざばんと二宮さんが立ち上がるとお湯が大きく波打つ。
このあと二宮さんが淹れる甘ったるくて仕方のないココアを、ココア派だと笑っていた櫻井さんなら美味しく飲むだろうかと思いかけて、
やっぱり二宮さんの甘ったるいココアを私以外の人にあげるのはちょっともったいないなって思って考えるのをやめた。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年7月19日 17時
