カフェオレ ページ2
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王子様を、探しているの。
お昼休み。
青いテープばかりになった自販機は冬から春になったことを教えてくれる。
自販機前の椅子に座って買ったばかりの缶コーヒーを開ける。
甘ったるいカフェオレが喉を滑り落ちていく。
最後の一滴を舌で舐めとってから缶をペコンと潰す。
少しもすっきりしなかった。
ゴミ箱に空き缶を放り込んでデスクに戻る途中、喫煙スペースにあなたの姿を見つけた。
ふわ…と白い煙が吐き出されてゆらりゆれるそれを目で追っていたらあなたと目が合う。
きゅ、と口元を引き上げてあなたが笑う。
ガラスの向こうからあなた…二宮さんが手招きするからふらふらと吸い寄せられるみたいにガラス戸を開く。
途端に煙草の匂いが顔を包み込んで、ちょっとだけしかめっ面。
「なぁに、俺のことさがしてたの」
「ちがう」
「なんだ残念」
ちっとも残念そうじゃない。
二宮さんはまたふわっと煙を吐き出す。
この人はほんとに美味しそうに煙草を吸う。
今日もいつもみたいに指に挟んだ煙草を揺らして満足そうに息を吐く。
ふわっと、また吐き出された煙を目で追っていたら二宮さんの手が私の頭に乗せられた。
「なにかあったの」
あなたはいつも興味なさそうに聞くから、ついしゃべっちゃっていいかなって思ってしまう。
「王子様じゃ、なかった」
「あっそ」
つきんと、胸の奥が痛む。
それと同時に怪我をしたばかりの手首が痛む。
思わず包帯の上から手首を押さえたら二宮さんにその手をつかまれた。
「いつやられたの」
「おととい」
「殴られたの」
「んーん、蹴られてよろけて自重でつぶした」
「つぶしたのか…おまえ軽いのにね、か弱い手首だことで」
二、三度手首をさすって二宮さんの手が離れてく。
二宮さんの視線が私から外れて、またひとつ煙を吐き出す。
ゆらゆらとそれを追いかけながら私は痛いくらい手首を握りしめる。
まだ腫れの引かないそこがジンジンと悲鳴を上げた。
二宮さんが煙草を灰皿に押し付けた。
ぐりぐりやって火が消える。
休憩時間はおしまいみたい。
「ねぇ二宮さん、またダメだったよ」
「別にいいじゃん、俺がいるから」
屈んだあなたが近づいてあっというまに唇が触れる。
甘ったるいカフェオレの味を忘れるような、煙草の苦い味がした。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年7月19日 17時
