恋人 ページ10
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二宮さんはわりと誰にでも態度が悪い。
そんなところばかり見ているだけでホントはそうじゃないのかもしれないけど、とにかく慇懃無礼な態度じゃなくてただ素直に頭を下げる二宮さんなんて初めて見た。
今日は二宮さんの唯一の友達も初めて見たし、二宮さんの初めてをよく見る日だ。
「ありがとうございました。もう大丈夫ですから」
うーん、慇懃無礼にはなってないけど、丁寧な言葉からは「もう帰れ」っていう二宮さんの本音が透けて見える気がした。
私だからそれが見えるのか誰にでも見えるのかはわからない。
それは美人さんが表情も動かさず微笑んだままだったから。
これまた二宮さんと違ってあまり表情から感情が感じられない人だと思った。
微笑む姿は綺麗で低い声は優しそうだけど、それだけ、って感じがするのは美人さんがただ美しすぎるのか、それとも温かさを感じないからか。
「すみません、迎えが来ることになってるんですよね。その人が来るまでここにいてもいいですか？」
顔は二宮さんを向いていたけど、私は二宮さんがしゃべるために息を吸い込むより早く「いいですよ」と答えた。
また二宮さんの眉間にぎゅっとしわが寄る。
そんな顔ばっかりしてたら将来しわだらけになっちゃうよ。
「ありがとうございます。……あの、ところでお二人はもしかして恋人ですか？」
「ちがいます」
って私が言うために息を吸い込むより早く今度は二宮さんがそう言葉を吐き出した。
あまりの勢いに私は驚いて二宮さんの顔を見上げる。
眉間に寄ったしわが無くなっていて、どことなく捨てられた子犬みたいな表情をしてる。
「……そうなんですか」
「そうです。俺には…恋人はいません」
この表情も初めて見た、と思いかけて、私は過去に一度だけこの表情を見たことがあったことを思い出す。
いつだか遠くを見る目をした二宮さんが「甘ったるいのをさ、あげたかったんだよね」とさみしそうに、空気に溶かし込むように言っていたときと同じ顔。
なんとなく、二宮さんは早くこの人から離れたいんじゃないかと思った。
なぜなのかは私にはわからない。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年7月19日 17時
