黄色く染まる ページ40
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甘い甘い特製の卵液のなかにふわふわのパンが沈んでじわじわと白色が侵食されていくのをどことなく見つめていたら急に二宮さんがこっちを向いて目が合った。
「んなに見てもすぐにはできねぇよ」
「いーじゃん、そーゆう気分なの」
微睡が恋しくて口を動かすのも面倒で、怪しい呂律のまま言葉を吐き出せば二宮さんは「はぁ」とわかりやすく偽物のため息をついてきゅと口角を上げた。
「甘ったるいの、好きだろ」
「……好きだよ」
二宮さんの白くて丸くて実は結構男らしい手が最後に残った白い部分をぎゅうと黄色の中に沈めてしまった。
卵液を吸い込んでなすすべなく黄色く染まるパンを見ながら私はひとつあくびを吐き出した。
一応病院に行くか、という二宮さんの提案で翌日に休日診療の病院に行って、湿布やら痛み止めやらをもらった。
相変わらず酷く優しく触れる二宮さんに手当てをしてもらって、せまいベッドでいつもみたいにくっついて眠った。
一人ぼっちだったら全然眠れなかったかもしれないけど、眠りの中でどれだけ智さんが追いかけてきても何度でも二宮さんが私を連れて逃げてくれたから朝が来る前には微睡みの中に沈み込むことが出来た。
そして朝から昼に時間が変わるころ、ようやく眠りから覚めた私は二宮さんがいないことに気が付いてふらふらとベッドを抜け出した。
少しだけ痛む肩や足を庇いながらリビングに出ても二宮さんの姿がなくて、ちょっとだけ焦ったみたいにどこに行ったのかなってぐるりと部屋を見渡したら玄関でドアの開く音がした。
「買い物に出てただけだよ、そんな不安そうな顔すんな」
「してない」
「そう？」
目と口元で笑いながら二宮さんの顔が近づいてきてちゅっと唇が額に触れた。
「風邪とかもひいてなさそうだね」
「おかげさまで」
「ん、よかった」
ポンと頭を撫でた二宮さんの手が買い物袋から卵やら食パンやらを取り出す。
ちょっとだけ、いいやつ。
いつもよりお高めの品のパッケージだった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年7月19日 17時
