帰ろう ページ35
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喧嘩したらごめんねって言いあって、
寒くて震えてたら温かいココアを淹れてくれて、
一緒に料理をして笑って、
美味しくなかったら美味しくないよって文句言われて、
頑張って練習して出来上がった料理に頑張ったねって言ってくれて、
同じお酒を飲めて、
おやすみって言ったらおやすみって返してくれて、
おんなじベッドで眠って、
朝起きたらおはようって言って、
おはようって返してくれて、
そんな普通のことでいいのに。
そんな普通のぬくもりでいいのに。
「ほら、ちゃんと俺を見な？」
バシリと智さんの手のひらが私の頬を叩いた。
じんわりと痛みが広がっていく。
すごく、寒くなって。
無性に二宮さんの淹れてくれるココアが飲みたくなった。
甘ったるくて仕方ないココアなら、きっと冷え切った身体を温めてくれる気がした。
このまま智さんのところに戻るんだって、あきらめかけた。
また毎日のように殴られたり、蹴られたり、そして愛を囁かれて、そして……。
そして、どうなるの？
視界一杯に涙がたまって、それをこぼさないように歯を食いしばった。
結局逃げただけの私が智さんの前で泣くなんて、いけないことだと思った。
「水瀬…！」
声が、した。
滲んだ視界の向こうの方から、見慣れたシルエットが現れる。
その人は私の上にまたがった智さんにつかみかかると普段からは想像のできない力で引き離した。
「お前こいつに何やってんだ……！」
降りしきる雨さえも震えるような低い怒鳴り声にびくりと私の身体も震える。
「誰だお前」
「俺はこいつの！……こいつ、の……」
言いよどんだ二宮さんの腕から力が抜けて、それを智さんが払い落とす。
「勝手に邪魔するな。ほらA、帰ろう」
その笑顔が好きだった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年7月19日 17時
