カプセル ページ21
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櫻井さんがオススメだというロールケーキを食べて(めっちゃおいしかったけどお高い)、食後に注文したカフェラテを吸い上げていたら氷の入ったアイスココア(今日三杯目)のグラスをからんからんと櫻井さんが揺らす。
ちょっと遠くを見るみたいに窓の向こうを見ている視線の先をなんとなく追った。
窓の外ではせわしなく人が行きかっている。
恋人同士なのか手を繋いで歩く男女や、
くっついて歩いていく三人組の若い女性、
有名ショップの袋をぶら下げた夫婦らしき男女、
土曜日も仕事なのかスーツ姿の男性。
通り過ぎるだけが当たり前の街を行きかう人たちにだって、当たり前のような毎日があるんだろう。
例えばあの夫婦は家に帰ったら家庭内別居中かもしれないし、
あっちの女性三人組は学生時代に男の子を取り合った仲かもしれないし、
向こうの恋人たちは実は暴力をふるったり振るわれたりしているかもしれないし、
仕事に追われてるスーツの男性は子供が反抗期で手を焼いているのかもしれない。
そんな誰にでもある当たり前で、それでいてかもしれないと勝手に想像するしかない毎日を、私たちは秘密にしてこの世界を闊歩する。
からん、と、どちらともなくグラスの氷が音を立てた。
櫻井さんの大きな目が私に向けられる。
「あの、たぶん僕すごく怪しい奴になっちゃうと思うんですけど……これ、何も言わずに受け取ってください」
櫻井さんが机の上に差し出したのは、透明なプラスティックファスナーの袋に入れられたいくつかのカプセルだった。
病院とかでもらう、薬みたいなもの。
「……え、…と……？」
「ごめんなさい。僕にできるのは今はここまでだから、お願いします。受け取ってください」
櫻井さんが丁寧に頭を下げる。
ふわふわの髪がゆらっと揺れた。
「あの……」
「本当は、こうやって誰かに会いに外出するの同居人が嫌がるんだけど、今日はどうしてもってお願いしたんだ。待ち合わせ場所についてからもごちゃごちゃうるさくてさ、あの時点で電源切っちゃったんだけど」
そう言って櫻井さんが苦笑い。
そういえば待ち合わせ場所で機嫌悪そうに電話切ってたなって思い出す。
「それでも、どうしても君に会っておきたかったんだ。君が、彼の恋人じゃないならなおさら」
櫻井さんもおかしな人だ、と思った。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2019年7月19日 17時
