いつかの日【Orter Maddle】 ページ1
オーター・マドルはその日眠れなかった。
小さな綻びから規則は瓦解してしまうのに。消灯時間はとうにすぎている。しかたなく、ふーっ、と長い溜息を付いて窓を眺めた。
深い紺碧の絵の具がもられたパレットに月塊が描かれている。どうやら今日は満月のようだった。
月は美しく妖艶で、どこか不気味であった。
遠くの空で梟が飛んでいるのが分かる。
ふっ、と金糸と碧眼が浮かび上がった。あの双眼はいつも、怪しげな光を湛えていたと思い出す。
彼は月を眺めてあの苦い初恋の味が浮かび上がった。
「起きたのね。アナタ、大丈夫?」
「……は?」
目覚めた第一声はそれだった。
暖かな光を瞼の奥に感じて、まず目に飛んだのは人形のように精巧な顔立ちだった。
鼻と鼻が触れあいそうな程、或いはその形の良い桃色の唇と自身の唇が触れ合ってしまいそうなほどには近かった。
「はぁっ!?」
状況を再確認して、あらためてオーターは戸惑いの声を上げた。碧眼から距離を取って少し周りを見てみれば、学校の保健室だということを認めた。
鼻に消毒と清潔な洗剤の匂いがつん、と香る。
「驚かないでよ。こっちまでびっくりするわ」
触りがないソプラノがゆったりと言葉を紡いだ。
改めて見ても、人形のようだった。豊かな金髪に蒼い瞳。実家で見て、柄にもなくなんて綺麗なんだろうと息を呑んだビスクドールに似ていた。
「どこか痛むことはないかしら」
「……いえ」
オーターはコインのために、校長からの任務を受け入れたのだった。
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作者名:たまごのしろみ | 作成日時:2024年2月20日 20時