モブに名前なんて無い【烏野高校】

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【 ▽ Side . 影山 】









ーーあの瞳(め)を、忘れられない。



なんとも理解しがたい事を言った
心に蟠(わだかま)りを残す女の目が。
力強くも清く澄んでいるはずなのに
何処となく哀しげな女の目が。

頭に焼き付いて離れないのだ。



名前を呼ばれない孤独なら知っている、と
言い放ったアイツの言葉が
心に不可解と不愉快の爪痕を付け、
それは只管に気持ちをかき乱すだけであり
あんな顔を、もう見たくないと
心の何処かで思っている自分がいる。


けれど、この気持ちは邪魔なもの。

バレーには集中できて
練習の妨害になっていないが
脳裏にちらつく女を思うと胸が痛み
ふと我に返り気付くと、
同じ学校の制服を纏った彼女を探していた





「……月島？」



うるさい橙色の頭をしたチームメイトを
見かけずに終わった昼休みの後の
五時限目は化学の実験をやるらしい。

理科室に着いてから忘れ物に気付いて
教室を目指し廊下を歩いていると
遠目でも目立つ背の高い同級生が見えた


本来ならば、この時間は
進学クラスで授業を受けているはず。

それなのに 見据えた先の方向は下駄箱で
奇怪に思いながら、その後ろ姿に声をかける





「なにしてんだよ、お前。授業だろ」



振り向くことにさえ億劫だとでも言うように
めんどくさげな雰囲気を醸し出しながら
眉間の皺を隠さず こちらを向く。

その際に、目先の人間には不釣り合いな
綺麗に畳まれた真っ白の布が見えた




「…別に。王様には関係ないデショ。」




相変わらず腹立たしい物言いに
声を荒げようとすると
それに気付いたのか
妨げるようにして再び同じ声が聞こえる。




「もう行っていい。王様と違って暇じゃないし、これでも急いでるんだケド。」



有無や、呼応すらも言わせずに
先を歩き出した皮肉野郎に
つい反射的に呼びかけるけれど
予想していなかった声が反応をした





「あれ？ 影山に月島？」



年の割には高めな声。

高校生活を送るにして
殆ど毎日聞いているだろうの其れは
朝の部活で聞いた以来であり、
そんな声に対してか定かではないが
歩みを止める素振りすら見せなかった
月島が此方に視線を遣る。




「珍しい二人が一緒に居るもんだな。あ！そうだ聞いてくれよ！ずっと会いたかった人とやっと会えて、」


「……その子は？」


「…は？」


「その子は、どこにいるの」




口を開く暇さえなく
二人の会話を聞いていると
あの女の凛とした声が聞こえた気がした

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