愛し君へ【黒】 (ページ6)

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6 記憶の湖ページ6

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「まったく…兄さんになんて言えばいいの？30分も遅れて来たかと思ったら、洋服はびしょ濡れで…。お相手を帰らせてしまうなんて…」

「ごめんなさい…」

「せっかくいい話だったのよ？お医者さんで…将来は兄さんの後を継いでもらえると思ったのに…」

　

「…遅刻してしまったのは…申し訳ないけれど…。
適齢期なんて、人それぞれでしょう？
私の友達もそう言ってるわ。結婚したいと思った時が適齢期よって…」

「Aちゃん、私がこれだけあなたのことを親身になって考えてあげるのは、身内だからこそなの」

「…それは、ありがたいと…思って…」

「あなたのお父さんもあなたには言わないだけで…結ばれるのはお医者さんがいいと、そう思ってるはずよ」

叔母さんは私を喋らせてくれなかった。

「学歴・収入・身長の三高はあたりまえ。身元も確かだし、性格も保証つき。せっかくのお話しだったのに」

口ごもる私に追い打ちをかけるように、

「あなたが縁談が嫌でふざけてると思われたわ。
Aちゃんは前にあんなことがあったから、なんとか幸せな結婚を…」

「やめて！」

私のいつになく強い語調に、言葉を止めて、びっくりしたように、私を見つめている叔母の方に向き直った。

「ごめんなさい…。でも、あのお話はやめてください」

叔母の静かなため息が車内の空気に吐かれた。

窓の外を見つめると、暮れかけた西の空に二日月がうっすらと見えた。

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