5 お見合い ページ5
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待ち合わせ場所は、ホテルのロビー横に位置する広々とした空間のラウンジだった。
中2階まで吹き抜けになった解放的な場所でありながら、隣の席との距離感もちょうど良く落ち着いた雰囲気が漂う。
幾何学模様の絨毯にパンプスを踏み入れると、駆け出しそうになるヒールを宥めるように、優しく受け止める床の感触が伝わる。
ロビーからラウンジへ繋がる壁一面の装飾は、何千個ものガラスブロックが敷き詰められ、琥珀色の光が眩く反射していた。
あたりを見渡していると、着物姿の叔母がラウンジの席で一人で座っていた。
駆けて席まで行く私を見つけると目を丸くして肩を落とす。
「Aちゃん」
「明美叔母さん、本当にごめんなさい、遅くなってしまって」
テーブルに乗っていた紅茶のティーカップとソーサーは3人分置かれたまま、席に残っていたのは叔母さん一人だけだった。
「お相手の方が、あなたが遅刻したことに呆れられて…帰ってしまったわ」
顔を両手で覆ってもう、とつぶやく叔母の姿に申し訳なさが募る。
「ごめんなさい、本当に…」
「叔母さんも着物まで着てきて…恥ずかしいわ。
こんなにぽけぽけしてるあなたが…春から学校の先生をやるなんてほんっとに想像がつかない…」
叔母の刺さるような言葉に、耳を赤くして俯く。
それから、ホテルの外へ出てタクシーに乗りこむと、明美おばさんは待っていたとばかりに小言を繰り返した。
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作者名:riko | 作成日時:2023年6月5日 15時