愛し君へ【黒】 (ページ3)

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3 ホッとするページ3

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「やっぱりお姉さん待ってたんだねぇ、バックミラーで気づいて。お兄さんが急いで戻ってってさ。よかったよかった」

初老の運転手さんの朗らかな声に会釈をすると、

なんとも言えない沈黙が流れる。

「えーっと、どこまでですか？」

タクシーの運転手さんが私たちに目配せをしてくる。

「どちらまで行かれますか？」

彼に尋ねられて、ホテルの名前を告げると、そこまでお願いしますと低い声で言ってくれた。

緊張しながら身を座席の端っこに寄せる。
彼はスマホをいじりながら下を向いていた。

急いでないの？
私を先に送ってもらってもいいの？

聞きたいことはあったけれど、これ以上関わりを持つと彼にも迷惑になってしまうかと思って口を噤んだ。

流れる外の景色を眺める。
高層ビルの間、四車線の路。
土日で賑わう街並み。

空が曇っていると、少しホッとする。

タクシーの心地いい振動に揺られて、瞼が重くなってきた。

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ふっか目黒!まだ?
蓮すみません、少し遅れます

ふっかさんへスマホで連絡してから横に視線を移す。

えっ、寝てる？

すうすうと静かな寝息を立てて、瞼を閉じている彼女。

タクシーが信号で止まるたびに、柔らかな素材の白いワンピースの裾が振動で靡く。

特別な日なのか、色素の薄い髪は綺麗に結われてて。
初めて視線を交わした時にその顔の美しさに思わず息を呑んだ。精巧に作られたような顔のパーツは、この人が眠っていても、静かにその美しさを主張していて。あどけなさも残る、その寝顔が、見惚れてしまう程に可憐だった。

いくら昼間だから…
運転手さんもいるから…
とはいえ、このシチュエーションは無用心に思うだろ？

この女の人がなんとなく気になった。

ちらりと、彼女を見る。
ふっ、やっぱり眠ってる。
儚さをも感じる、優しそうな寝顔。

外を見ると、空は少し曇ってて
ポツポツと雨音が聞こえる。
まぁ、たしかに、こういう日はなんだかホッとするよな。

心の中で、隣で眠っている、彼女に声をかける。

俺も、その気持ちがよく分かるって。

ホテルのエントランスでタクシーが停車したとき、彼女の瞼が開く。
生まれたての子猫が目を開くような、なんともいえない甘い動作にそれが見えた。