20 素顔を見せて(Ren) ページ20
敬語も無くなってフランクに喋る俺に気づいたAさんは「ふふ、そうねぇ…最近は…」と少しゆったりとした口調で話した。
あぁ、きっと、これが素顔のAさんがなんだろうなぁって思った。
「色んな組み合わせの創作トマトソースを考えて…ペンネとかパスタに合わせたりしてるかな」
「創作?すごい…どんなものを組み合わせるの?」
「ふふ、好きなものを好きなだけ、時短で美味しく出来るお鍋に入れちゃうだけだよ?
疲れてる時はお肉とか合挽きのミンチに鶏肉も入れたり、お野菜も玉ねぎと茄子とエリンギとかを入れて…トマトソースにして煮込んで…」
時短で美味しく出来る鍋…
料理が好きな女子が使うやつかな?
俺には全然わからないけど、こだわり道具なんだろう。
具沢山だなぁ、なんて思いながら…ふと呟く。
「そこにペンネを?」
「ふふ、うん。つい、ソースの方がボリューム出ちゃって、メインみたいになっちゃうの」
美人さんなのに、笑うとほんとに可愛らしい。
ふんわりと柔らかな、女の子の顔になる。
そのギャップが、たまらないんだ。
エプロンをつけて、髪を一つに結って…スリッパの脚をパタパタ可愛い音を立てながら作るのかな?
想像するだけですごく美味しそう。
食べたいなぁ…Aさんの料理。
「一人暮らしを始めた頃から料理を始めたの?」
空になった俺のグラスにAさんは備え付けのピッチャーから水を注いでくれながら、言葉を続けた。
「母が、私がまだ小さい頃に亡くなって、それからずっと父と二人暮らしだったの。父も仕事で忙しい人だから、朝から晩まで毎日くたくたになりながら働き詰めで…」
うん、って、ひとつずつ相槌を打つことしかできない俺を、Aさんは包むような眼差しで受け止めてくれる。
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作者名:riko | 作成日時:2023年6月5日 15時