18 瞳の奥のレンズで(Ren) ページ18
店員さんが持ってきてくれた一冊のメニューを開いて、一緒に見えるように開いてくれるAさん。
俯くと、マッチ棒が何本か乗ってしまうほどの長い自然なまつ毛が際立つ。
「目黒くん、何にする?このお店はお肉が一番人気なんだけど、パスタも色々美味しいよ」
「お腹空いてるから、俺はこのお肉がいいな」
「ふふ、うん、いいね。
私は…どうしよう、迷う…」
「Aさんはどれとどれで迷ってるの?」
少し顔を近付ける。
俺が意識してそうしても、Aさんは俺の意図なんててんで気づかずに熱心にメニューを見てる。
「ペスカトーレか…クアトロフォルマッジのピザ…チーズの生ハムのサラダも美味しそう……迷っちゃってごめんなさい…どうしようかな」
Aさんって、知れば知るほど奥深い。
綺麗で優しい、芯も通ってる歳上のお姉さんってだけではない。
今だって、ほら、…ボンヤリと可愛らしい顔でメニューとにらめっこ。こんな無防備な姿が俺の心をくすぐり倒すんだ。
「全部頼もっか。それで、俺とシェアしよう?余ったら、俺、全部食べられるし」
俺がそう言うと、Aさんは花が咲いたように嬉しそうに頷いた。
「いいね。最近、一人で食べることが多いから、そういうの…久しぶりで、嬉しい」
俺は何度も瞳の奥で写真を撮るように、Aさんの表情を見つめ続けた。
それから、心の中にあるコルクボードにピン留めをしていく。
一つ一つの言葉をゆっくり、優しい声で大事そうに話す
笑うと小さなえくぼができる
表情がコロコロ変わる
困ると、眉毛がしゅんって下がる
知っていくことが増えると、
Aさんへの想いも増えていく。
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作者名:riko | 作成日時:2023年6月5日 15時