14 雑踏の中、君を見つける(Ren) ページ14
Aさんと電話をした翌週の日曜日。
いつもならコーヒーショップのバイトのシフトを入れてる日だけど、今日はふっかさんに変わってもらって休みをもらった。
家から最寄駅まではマウンテンバイクに乗って、駅の近くの駐輪場に停める。
それから、人が行き交う交差点の雑踏、ビルを建てている工事現場、オープンテラスのコーヒーショップを歩いて駅まで向かう。東京は十歩歩くだけでも色んな香りが入り混じる街だと思う。
約束の時間よりも少し早めに来て切符を一枚買って、パンツのポケットにしまう。
柱のところで佇んでいると、雑踏の向こうに俺の目が止まった。
白っぽい長めのトップスに、ミントブルーのスリムデニムを足首の見える丈にロールアップして。細い足首から続く足元はヌードベージュのパンプス。
キョロキョロしながら辺りを見渡して、その視線が俺と重なった。
来てくれた…。
彼女の丸い瞳が俺に向けられた途端、名前を呼ばれて尻尾を振りながら駆け寄る犬のように、彼女の元へ走って向かう。
その時、俺に気づいて立ち止まったAさんの後ろで彼女にぶつかりそうな人影が見えた。
「危ない」
咄嗟に彼女の細い手首を取って、俺の方に寄せる。
甘くて、柔らかい花のような香りが、彼女からした。
肩に乗っている髪が、駅構内の光に照らされて錦糸みたいに光っている。
どれだけ人がたくさんいても、Aさんの顔だけはまわりから浮き上がって見えるくらいに輝いている。
少なくとも俺の目にはそう映る。
近くに来て、Aさんが着ているのが真っ白な麻素材の軽やかな薄手のサマーニットなのがわかった。
上品な雰囲気がAさんの楚々とした雰囲気に合ってる。
少し恥ずかしそうに俺を見上げて、おはようと言って。
俺が切符を渡すと、ありがとうって優しく呟いて。
ただ、それだけのやり取りだけで、Aさんは俺の心を攫って行く可愛いドロボーだ…。
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作者名：riko | 作成日時：2023年6月5日 15時
