インクの広がる先。【宮治.宮侑】 (ページ17)

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侑とAが付き合った翌日の朝練で、俺は部員にもAにも、酷い顔やで！大丈夫か？！と心配された。
ただ１人、侑は俺を心配そうに見てはいたが、声を掛けてくることはなかった。俺がベッドの下で、声を押し殺して泣いていたのを知ってたんやろな。
そんで、何で泣いてんのかも。

「おん、大丈夫や。すんません、練習はきっちりやります」

目は相変わらずショボショボするし、鼻は詰まったままで、季節が季節だったら花粉症で……なんて言えたかも知れんかったな、なんて考えながらメニューをこなす。
そう言えば朝、オカンも俺の顔見てギョッとしてたけど、その後に侑の顔見てまた俺の顔見て、結局黙って、何も言ってこんかった。
海より深き母の愛。いつもありがとう。

朝練にも勿論Aは居て、昨日洗ったビブスを畳んだり乾かしとった空のスクイズボトルを運んだりしてた。
Aの髪の毛は数ヶ月で伸びて、高く結ったポニーテールが肩先で揺れていた。

「おっくん氷いる？目、冷やす？」

「えや、平気」

「そう？無理せんといてね？」

(平気なわけあるかい)

Aはなぁんにも悪くないのに、俺は胸の中で毒づいた。

ペラペラ言い触らしてはしゃぎ回るかと思ったが、侑は案外普通に(と言ったら失礼かも知れんが)Aを大事にしとった。
今まで募集なんかしとらんかったし、やりたくてもやれんかった男子バレー部のマネージャーで侑の彼女のA。やはり風当たりはキツイ様だった。

「何しよるん？こんなとこ…で……」

やっと昼飯。俺が飲み物を買いに来た自販機の側に、Aはずぶ濡れでしゃがんでいた。
特別教室棟の近くにあるこの自販機には俺が好んで飲む炭酸飲料があり、普段は誰もここまで買いに来ないが、俺はいちいちこの自販機まで買いに来るのだ。

……チッ

思わず舌打ちが漏れ、それが聞こえたのか膝に顔を埋めたAが肩を震わせた。
見てはいないが、Aがずぶ濡れになったそのシチュエーションはありありと瞼に浮かんだ。

(侑はなにしとんじゃ！！)

心の中で毒づきながら教室に走り、スポーツタオルを引っつかんでAのもとへ駆け戻った。