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そうじゃないかもしれん。その原因を突き止めた訳じゃないから。
Aが髪の毛を切ったのは、本当に邪魔やと思ったからかもしれん。
けど、そうじゃないことは俺も侑も分かっとった。それを証明して今度こそAを守るために、俺らは防ぎようの無い何かを注意深く見るしかなかった。
中学校の時から、彼女ではないにしろ俺らの近くに居た女は、何時しか女から遠巻きにされとった。
目立つから、俺らの近くにいることが一種のステータスになってたんちゃうかと思う。何度も言うようだが自惚れやなしに。

「短いのもええな。他の女に思ったことないけど、Aのはなんかええ。うなじがええな」

部活中、俺らのスクイズを確認しとるAを見ながら侑が言った。

「なんか侑が言うと工ッチだ」

角名が笑う。
ギャンギャン噛みつくかと思ったが、侑は尚も微笑みながら

「そうやな。旨そうや」

と、うっとりと言った。
瞬間、俺の背中はザワリと泡立ち、額にも脇にも汗がジワリと滲んだ。気分が悪い。

「おっくん、顔色悪ない?」

いつの間にかAが側にいて、俺の顔を覗き込む。

「悪ないわ」

俺は言い、その場を離れた。
息が苦しい。

「なんやあいつ」

低い声でボソリと侑が言うのが聞こえた。

*

その日、侑の眠る部屋を訪れるとAが居た。

「あ、治」

Aは侑の顔を見つめていたが、俺に気付き微笑んだ。
俺が黙ってAの側に寄り抱き締めると、俺の背中にその小さな手を回して俺の胸に頬を寄せた。
侑が見たら、Aを引っぺがしてその胸に抱き寄せ、ものっすごい怖ーい顔で俺を睨み付けるんやろな。いつか、何故だったか侑の前でAが俺にじゃれついて、首もとに顔を寄せてきたのを思わず抱き締めたら、侑が俺に怒鳴り散らして、Aは怯えるわ先輩には(なんでか俺まで)どやされるわ角名はオッホホで散々だったことがあったな。

暫くしてAはスルリと俺の腕を抜け、また侑の顔を見つめた。
俺ら、確かにそっくりや。けど、俺は治で侑じゃない。
侑がこうなってから、Aは俺の腕の中ではどっちの名,前も呼ばなかった。そして俺の腕から抜け出すとき、必ず俺ではない、侑の顔を見つめるのだ。

(ごめんな、俺、こんなんで)

己の胸中に落ちたその独白は一体誰に対してか、それは俺自身も分からんかった。

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作者名:ポロリ | 作成日時:2019年10月30日 11時

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