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「起こせって!言うたやろが!ほんッッッま使えへん!!」

「起こしても起こしても起きんかったんお前やろが!人のせいにすな!」

バタバタと洗面所に駆け込む姿は、いつも見慣れた姿より少しだけ小綺麗だ。いや、興味はあるらしくいつも洒落てはいるが、今日は特別。

「なんや、キメッキメやなぁ。侑」

「やかまし」

リビングから響く母親の声に眉をしかめて一喝し、侑は俺にすり寄ってきた。

「………送って」

「チッッッ!」

俺の舌打ちなんぞなんのその。聞いてもいなかったのか、侑はすでに玄関に座り込んで履き古しているが決してボロくはない革靴に足を突っ込んでいた。

「帰りは?遅くなるん?」

「タクシーで帰るわ。ありがとうな」

「おん」

行ってきます!と声をあげれば、母親が'行ってらっしゃい!気張りや!!'と叫ぶのが聞こえた。
俺が車の鍵を開けると、俺よりも先に助手席に滑り込んでシートベルトを締めた。背中に掲げていたボディバッグは腹側へまわして、大事そうに両手で抱えている。
赤というよりは赤紅、それに深藍のような落ち着いた青が"大人を演出している"、と侑は言っていた。
それはAからの贈り物で、誕生日に受け取ったのだが、俺のと別の包装で中身でさえもお揃いではなかった。
嬉しいような、微かではあるがガッカリしたような、きっとそれは侑も同じだっただろう。

ソックリ!と言われると、当たり前やろ、とウンザリする。全然ちゃうな!と言われると、それはそれで腹立つ。見分けがつかん!と言われると、お前に何が分かんねんアホが!と思う。
俺らは別の人間。やけど、おんなしなんや。

「あ、侑!おはよう!治もおはよう。侑、寝坊したんやろ、雰囲気が何時も以上にワチャワチャしとるわ」

「何でバレたんや?!寝癖はバッチリ直したはずやのに!」

「送ってくれてありがとうな治。預かるわ」

「人のこと荷物みたいに言うなや!」

不貞腐れながらもAを見る侑の顔は優しく、それは俺に向けられたことのある幾つもの表情を遥かに凌駕していた。

「治!まったねー」

手を振って、侑と手を繋いで歩くAを見送った俺は、また運転席に身を沈め、自宅に向けて愛車のアクセルを踏み込んだ。

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作者名:ポロリ | 作成日時:2019年10月30日 11時

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