岩 田 図 鑑

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狼がいなくなった赤ずきんさん。


そんなの、ただの普通の女にしか過ぎなくて。

私が泣こうが喚こうが、時間はみんなに等しく過ぎていく。



自分で別れを告げたくせに剛典を忘れられず、
部屋のあちこちに彼の面影を感じる日々は地獄のようだ。



テーブルに頬杖ついて小首を傾げて、私を見つめる仔犬みたいな瞳。

その瞳がだんだん光って狼に変わっていくのが待ち遠しい夜。

2人で食べた即席ラーメン。

一緒に作った朝食のオムレツ。

焦がしたアジの開き。

よく晴れた日はベランダに並んで洗濯物を干した。

お風呂上がりはベランダでビール。

それから始まるキスとブランケットにくるまれるベッドの上の時間。

几帳面に洗濯物を畳む窓際の広い背中。

そっと抱きしめると、「んー？」って振り返って優しく笑う。

剛典がいなくても香る彼の香水。

触れた肌の湿度や温度。

私の名前を呼ぶ声。



全部全部、私が捨てた。

もういらないってお前が言うまで離れないと言った彼の顔を思い出す。



「………いらないわけ、ないじゃない………」


懺悔も祈りも何もかも、もうどうでもいいように思えた。

ここに剛典がいないのだから、そんなものはもう何も意味をなさない。


ひとつ祈るなら、どうか彼が幸せになりますように。
お願いだから。









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