天使になった彼女【第五人格】

緑7 ページ8

ナワーブside

「ナワーブ・サベダーだ、傭兵をやってる」

『サベダーさんですね、よろしくお願いします！』


個人の自己紹介で、Aは俺に反応しなかった。
しかもその呼び方…俺の事、分からないのか？

モヤモヤした気持ちを抱えたまま、宴は始まった。
飯は…美味ぇ、けどAの事が気になって気になって。
とりあえず手元のショットグラスを空にした。


「お？今日は強いの行くのかよ〜」

「ウィル、酒…呑むぞ」

「っしゃぁぁ！」

「おら、持ってきたぜ」

「おお、ピアソンサンキュー！」


お酒もそこそこに、皆酔いがまわり始めた頃、女性陣の会話が耳に飛び込んでくる。


「へぇ〜人間の時の記憶とかってあったりするの？」

『天使になる時に消えちゃうみたいで、全く…。どんな人間だったんでしょうね？』


全く記憶にない…のか
何処でどうやって生きてきて
どうやって死んだか
俺と、恋人だった事も

そうだよな
知ってたら、こんな笑えねぇよな


ゲームの度に
あの解読中に襲われる恐怖
戦争後遺症は
今でも俺を苦しめ続けている



「おい、ナワーブ？聞いてんの？」


あ、なんか言われてんな…
そんな事を考えていたら突然Aがこっちを向いた。


「…！！」


俺は慌ててその辺にある瓶をイッキする。


「なんだよ、ボーっとしたり急に呑み出したり！疲れてんのかよ、あっはっは！」

「ちょっとウィリアム、痛いってば！」


イライには申し訳ないが、この時は見てたのがバレてないか、頭の中はそればっかりで騒ぎ立てるウィルに心から感謝した。


「ねぇ」

「あ？」

「Aってさ、可愛いよね」

「ゲホゴホ…！！！」


ピアソンがいたはずの席には、ノートンがいつの間にか座ってて口角を上げてAを見ている。


「汚ったな…」

「は？お前が変なこと言うからだろ！」

「へぇー、ナワーブってそうなんだ？」

「な…何がだよ」

「いや、なにも」


まぁ…呑みなよ、と空のグラスに何度も何度も琥珀色の液体が注がれる。
隣で俺以上のペースで呑むこいつは、ザルを超えてワクだった。


「う…気持ち悪……」

「ねぇナワーブが違うなら、本気だしていい？」

「……ろ」

「ん？」


ダメに決まってんだろ、その言葉はちゃんと発音出来ないまま俺は重い瞼を閉じた。

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