8−1 ページ38
.
「…ん」
泣き疲れたのか、あの後仮眠室に着いた途端眠ってしまっていたナナさんが寝返りを打った。
ずれ落ちた布団を直すため、立ち上がった瞬間、
≪…ここ、のえ、さんっ≫
さっきの彼女の声が頭の中でした。
「…名前、初めて呼ばれたな」
単純なことなのに何故だかすごく嬉しくて、口角が上がったまま布団を掛け直した。
すると、
「職場でアオハル禁止〜」
伊吹さんが、ドアの方からニヤニヤとこちらを覗いていた。
「は、はっ?ア、アオハル?な、何の隠語ですか?」
「知らないふりしてもバレバレだよ〜?」
「う、うるさっ…」
「ちょ、ナナちゃん起きちゃうから…!」
対抗しようとする俺の口を塞ぐ伊吹さん。
「で、な、何の用ですか」
「あ、隊長が呼んでる。元、ね」
「ああ、分かりました」
小声でそう尋ねると、伊吹さんはドアの方を指さしたので出ようとすると、
「…どこ…いくの」
後ろから寝起きの掠れた声がした。
「少し出てきます」
「…どこに?」
踵を返して彼女のベッドの前にしゃがみ、目線を合わせる。
「すぐそこです」
「…うん」
「すぐに戻りますから、寝ててください?ね?」
「…ん」
不安げな表情の彼女を落ち着かせるために頭を撫でてやると、再び寝息を立て始めた。
「九ちゃんさ〜?」
「はい?」
「今、すっげぇ優しい顔してんの知ってる?」
「…知りませんけど」
伊吹さんの言葉が何だか気恥ずかしくて、早く行きましょうなんて言いながら俺は仮眠室を出た。
「桔梗さん」
仮眠室を出ると、分駐所のテーブルを囲む人間の中に桔梗さんがいた。
「九重くん、ナナちゃん襲われたって聞いた。大丈夫なの?」
「ええ。今は眠っています」
「…そう良かった。辰井組の二人は?」
「逮捕されて今、取調中〜」
桔梗さんの質問に、俺、伊吹さんの順番で答える。
「で、彼女の身元に関連する情報は?」
「ないです、何にも出てこないです」
「ちなみに今んとこ一番有力なのは久住に戸籍ごとデータ消された説」
「彼なら可能だし、やりかねないわね」
志摩さんと伊吹さんの話に頷きながら彼女は腕を組んだ。
「身元不明者リストにも該当はなかったと」
「…んー、本当に彼女か久住しか知り得ないってことね」
「本名さえ分りゃあなぁ〜…」
俺の言葉に頭を抱える隊長と陣馬さん。
すると、
「しまー!」
入口からこの場所には似合わないくらい元気な声がした。
415人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リトルバード(プロフ) - さえきsaekiさん» 返信遅くなりました…泣 ドラマが終わってからこちらのサイトにはログインしておらず気づくのが遅くなってしまいました。ごめんなさい。そしてすてきなコメント本当にありがとうございます!ドラマ終わってしまいましたが読んでもらえて嬉しいです!ごゆっくり〜 (2021年12月16日 23時) (レス) id: 16f707b051 (このIDを非表示/違反報告)
さえきsaeki(プロフ) - この作品残っててよかったです!しばらく404作品読んでなくて検索したりしたらずいぶん消えてしまっていて…きっと作者さんがログインされてないんですかね…でもここは残ってて何度読んでも感動できる作品がまた読めて幸せです…!ありがとうございます!! (2021年9月13日 20時) (レス) id: c60363b2be (このIDを非表示/違反報告)
リトルバード(プロフ) - mmkさん» mmkさん!初コメ嬉しいです…。書きながら「あ、これは読者様にはもしやはまっていない?」と思っていたので(笑)一人でもおもしろいと言ってくれる方がいて本当にありがたいです!完結までよろしくお願いします! (2020年11月27日 20時) (レス) id: 9ffe47897f (このIDを非表示/違反報告)
mmk(プロフ) - 一気に読んでしまいました!更新楽しみにしています! (2020年11月26日 10時) (レス) id: a296828649 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:リトルバード | 作成日時:2020年11月12日 22時