非番はずっと恋模様

3．ニヤニヤブラザース ページ3

「紅茶で良かったですか？」

「あ、はい。すみません」

九重が差し出したマグカップを受け取るA。

「熱いぞ、気を付けろ」

「…ん、分かった」

いつものように隣で彼女にそう注意する俺と、素直に聞いて気を付けるA。


すると


「…なんだその笑顔は」


向かいの二人の視線を感じ、目を向ける。


「いえ？なんでもありませんけど」

「いや、紹介？してほしいなぁって？」

九重も伊吹も楽しそうなのは何でだ。

「…AA。伊吹。九重」

紹介なんかしたくもなくて、とりあえず真顔で指をさし、その人物の名前を言う。


でも


「伊吹さんはかずくんの相棒さんですよね。で、九重さんは頭が良い後輩さん」


Aの長所である親しみやすい性格が裏目に出た。


「え、俺のこと知ってるの？うーれーしーいー！」

「光栄ですね」

伊吹は分かりきっていたが、九重まで女に弱いとは。

「A」

「ん？」

「…こ、ここ職場だ」

「あ、志摩くんがお世話になってます」

呼び方を直してほしくてAにこそっと言う。

「え、いいよぉ！別に！ねぇ？九ちゃん？」

「ええ、特に気にはなりませんね」

「めちゃくちゃニヤニヤしてんじゃねぇか！」

顔を見合わせムフムフと笑う二人に心の底からツッコむ。

「で、何で来たんだ」
　
「あ、これ」

俺の質問に彼女はカバンをがさごそと漁り、あるものを取り出した。


「はっ！USB！」


伊吹がそれを指さした。


「…お前これ」

「昨日仕事してたのに、朝見たら刺さったままだったから。困ってないかなって」

「…助かった。ありがとう」

年下なのにこういう気が利くところには尊敬しかない。

「ええー！できる彼女うらやましい！」

「そんなそんな。お仕事、そろそろですよね？帰ります」

「えー！もうちょっとお話しよ！」

「え、でも」

引き止める伊吹と席を立とうとするA。

「伊吹さん、密行のお時間ですよ」

「やだやだやだ！俺行きたくなーい！」

「A、外まで送る」

「うん」

九重が伊吹を立たせ、俺はAを出口へと連れていく。

「九重、抑えとけ」

「了解です。ほら、伊吹さん」

「ま、またねー！また会おうねAちゃぁぁん！」

「手は振らなくていい。無視しろ」

九重に押さえつけられた伊吹に手を振ろうとする彼女を制止し、そのまま分駐を出た。

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